管理職としてシステム開発部門を率いる立場に就いて以来、人材育成についてずっと悩んでいます。部下を早く一人前に育ててあげたいのですが、その思いが伝わらずに苦戦しています。人材育成にあたっての心構えを教えてください。

 筆者は会社を預かる社長として、社員の仕事ぶりにいつも感動している。「すごいな、その仕事は」「私が現場にいた頃は、とてもそこまでできなかった」と驚き、感心している。

 そのたびに「人材育成」という言葉について、おこがましいと感じる。人材育成という言葉には、「上から目線」で「育ててやるぞ」という気持ちが込められている気がする。上司や人事部が考える以上に良い仕事をしている社員を見ていると、つくづく「違うなあ」と思ってしまう。

人は良い仕事をしたがる

 人は基本的に、良い仕事をしたがるものだ。「誰かのために貢献したい」「チームとして良い仕事をしたい」と、みんな思っている。良い仕事をすることで、人は大きく成長していく。上司や人事部は、社員の成長を妨害しないことが最大の任務だと思う。

 例えば、部下が「新しいことにチャレンジしたい」と言い出したとする。妨害しないとは、そこで上司がその背中を押してあげることだ。さらに、応援のために上司が持つ情報を提供してあげることでもある。

 ともすると、上司が仕事の安全性を考えるあまり、「チャレンジはせずに、ここは枯れた技術を使って着実にいこう」などと決断してしまうことがある。部下の成長を妨げるとは、このことだ。

 部下が「ビジネスの最前線の現場を訪問して勉強してみたい」と言い出した時、「そんな余計なことはしなくていいんだ。黙って言われた要件通りに開発しとけ」と言うのも、成長の妨害だ。「部下を行かせたら現場から文句を言われるかもしれない」などと考えるようでは上司失格だ。このような上司に心当たりのある読者のみなさんも少なくないのではないか。

 こうした考えを筆者が持つようになったのは、冒頭に述べたように、社長になって社員の仕事ぶりを目にしたからだ。その働きぶりの一端を紹介したい。

 筆者の会社では5年前から表彰制度を運営している。毎月、特に印象的な活躍をした組織を7チームくらい表彰している。最近の表彰理由から、仕事ぶりを抜粋してみる。

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「次世代I・アプリチーム」

 タブレット端末やスマートフォンの業務活用を実現するという、当社でも初めての開発でありながら、約半年というスピードでシステムを作り上げ、トラブルなく見事にサービスインを成し遂げてくれました。

 振り返ると、サービスインまでには高いハードルがいくつもあったことに気がつきます。例えばスマホの業務では、入社1~2年目の社員によるほぼ完全な内製にチャレンジしました。社内にスマホアプリの開発経験者がいない中、iPhone向けとAndroid端末向けのアプリを並行開発するために、平日も休日も、寝ても覚めても勉強に明け暮れ、試行錯誤を繰り返し完成に漕ぎ着けてくれました。