運と実力の区別という難題に挑む

 華々しい業績を上げた経営者の手記を読んで、自分も倣おうと思う。仕事がうまくいった時のちょっとした行動を、ジンクスとして繰り返す――。誰にも経験がありそうだが、米国の投資アナリストである著者は、こうした事象は往々にして運によってもたらされているとし、「運に強く影響される活動では、小さなサンプルで判断することは、役に立たないばかりか危険である」と警告を発する。本著はビジネスとスポーツ、投資の3分野の事例を分析して、実力と運を区別するという難題に挑んでいる。

 著者は「運-実力連続体」というモデルを提唱。実力がものを言い、運に左右されることが少ないチェスやテニスなどと、ほとんどが運で決まるルーレットなどのギャンブルを結ぶ線上に、自分のビジネスを位置づけ、実力と運の比率をつかむべきと説く。

 そのうえで、実力を高め、運に対処する方法をアドバイスしている。例えば製造プロセスは実力の比重が高いので、シックスシグマのような統計に基づく改善で高い成果を挙げられる。一方でイノベーションには運が大きく作用するが、ネットを使った小規模なテストで顧客の反応を試すといった取り組みが、成功確率を高める一助になるという。

 ボールを使った実験や、スポーツのデータの統計処理によって、運と実力の関係を解きほぐし、統計初心者でも楽しく読める。

偶然と必然の方程式


偶然と必然の方程式偶然と必然の方程式
マイケル・J・モーブッシン 著
田淵 健太 訳
日経BP社発行
1995円(税込)