日本の多くのIT企業は、システム開発などを売り込む際に「提案しているプロジェクトはこのSE体制で行います。予定人月は〇〇人月です」とユーザー企業に体制図や人月を提示する。こんなビジネスのやり方は、もともとメインフレーム時代に買い手の顧客が「このシステムを契約すればSEを何人つけるのか」と問い、売り手のIT企業は「このシステムを買っていただければSEを○○人つけます」と答えた当時のビジネスのやり方からきている。

 そしてサービス時代になった今でも、この慣習が続いている。あたかも“SEをモノ扱い”したビジネスのやり方である。筆者はこんなビジネスのやり方が、日本のSEの「技術偏重・ビジネス意識の乏しさ」や「受身的な姿勢・顧客との壁作り」などを招いていると考えている。このため、これまで、「IT企業は顧客に体制図を出すな。SEの人月の提示や常駐をやめろ」としつこく言い続けてきた。それは、SEがこんな状況ではプロジェクトはなかなか上手くいかないし、SEもイキイキと働けない、ましてやそれでIT企業が発展できるのか深く疑問に思うからである。

 言うまでもなく、SEという職業は本来、知的な能力で仕事をする職業である。人工で仕事をする労働集約的な職業では決してない。SEなら誰しもそう思ってSEになったはずだ。だが、現実はどうか。残念ながら前述した通りである。そして、今ではSEという職業は3Kとさえ称されている。

 筆者は現役時代、このビジネスのやり方を何とかしたいと考え闘った。紆余曲折(うよきょくせつ)はあったものの、その経験から筆者は“この問題を解決できるのはSEマネージャーしかいない”と読者の方に訴えたい。その理由については、この連載の2月8日の回で述べた。

 その概要は次の通りである。顧客の「体制図や人月の提示や常駐」の要求に対して、IT企業のトップが「NO」と言えば相当な確率で失注する。また、営業マネージャーや営業担当者は、売るためにはなかなか「NO」とは言えない。一方、SEマネージャーやSEが「NO」と言って顧客と揉めた場合は、営業マネージャーなどがバックアップすることもできる。失注するリスクは大幅に低下する。こう考えると、SEマネージャーやSEは“その気になれば”体制図や人月の提示やSEの常駐の問題に“挑戦できる”。こうした理由からである。

 もちろん、SEマネージャーがこれに挑戦するには、SEマネージャー自身が「何をどうやれば体制図や人月などを出さなくても受注できるか」、その方策を考え、自分なりの答えを持つことが不可欠である。そこで今回から、読者の方々の参考になればと思い、そのやり方や闘い方について筆者の経験を基に説明したい。

顧客とIT企業の本音

 では、日本の顧客はなぜIT企業にSEの体制図や人月の提示、SEの常駐を要求するのだろうか。今回は、まずそれについて言及してみたい。

 日本では、IT企業がシステム開発プロジェクトなどを提案すると、顧客は往々にして「これは何人月でやるのか、開発するにあたってSEはどんな体制でやるのか」とIT企業に質問する。その傾向は大手ユーザー企業ほど強い。すると、IT企業は仕方なくかどうかは分からないが、それに対応する。中には顧客からの要求がなくても、売り込みを有利にするために、自ら「体制図や人月」を提示するIT企業もある。

 では、なぜ顧客は体制図などをIT企業に要求するのだろうか。それは一言で言うと、「顧客がIT企業を信用していないからだ」と筆者は考えている。

 ある例を述べる。あるとき筆者は、顧客の課長クラスの管理職とIT企業のSEマネージャーが大勢いる場で講演したことがある。そのとき、この体制図や人月の問題点とSEの常駐の問題点について説明し、「皆さんはどう思われるか」と問いかけた。するとIT企業のあるSEマネージャーは、「お客様が要求するから仕方なく……」と言った。それに対して、顧客の某課長は「IT企業を信用できないから要求するのだ」「我々はIT企業が約束通りやってくれれば体制図などは必要ない」と反論された。