ここからは、SDNを実際に導入(トライアルを含む)した企業に密着。導入したからこそ分かるメリット、そして課題について見ていこう。

 各事例の詳細に触れる前に、それぞれの事例の違いを区別するためのポイントを整理する。まずは適用分野ごとのSDNの違いだ。

 前述したように、データセンター向けSDNと企業ネットワーク向けSDNでは、まるで要件が異なる。データセンター向けSDNは、サーバーとネットワークの仮想化を組み合わせることで、これまでは不可能だった柔軟でスピーディーなサービス展開が可能になる。サービスが質的に変化する適用分野だ。

 それに対して企業ネットワーク向けSDNは、ネットワークの運用コスト削減が目的であり、質的変化がもたらされるわけではない。こちらは量的な変化が効果の本質となる。

 もう一つはSDNの実装形態の違いだ。SDNの実装形態は、ホップ・バイ・ホップ型、もしくはオーバーレイ型─の2タイプに大きく分けられる。

 ホップ・バイ・ホップ型は、経路上のすべてのスイッチをOpenFlow対応スイッチに置き換え、スイッチがコントローラーからのフローエントリーを受け取ったうえで、パケットを転送していく方式だ。柔軟なネットワークの負荷分散や制御が可能な半面、既存のスイッチをOpenFlow対応機器に置き換える必要があり、導入のハードルが高い。どちらかといえば、企業ネットワーク向けSDNなど、数十~数百台規模のスイッチを扱う分野に向いている。

 これに対してオーバーレイ型は、仮想スイッチ間でトンネルを形成。コントローラーからOpenFlowなどのプロトコルを使って仮想スイッチに経路情報を書き込む方式だ。仮想スイッチ間の物理ネットワークは、IPで通信できれば既存のネットワークも流用可能である。導入のハードルは低い一方、物理スイッチの監視や負荷分散は難しい。さらにジャンボフレームやMACアドレス学習の課題を解決しておく必要もある。

 なおオーバーレイ型で用いられるトンネリングプロトコルとしては主に、VXLAN、NVGRE、STTの3タイプがあり、こちらにもそれぞれメリット/デメリットがある。オーバーレイ型は、既に多くのネットワーク機器が存在するような環境や、スケールが求められるデータセンター向けSDNに向いている。

運用1年で大きなトラブル無し
コントローラーの分散冗長化が課題

 データセンター向けSDNを導入したことで、仮想サーバー作成と同時に仮想ファイアウォールや仮想ロードバランサー機能をユーザーが瞬時にオンデマンドで構成できるサービスを実現したのがNTTコミュニケーションズ(NTTコム)だ。同社が2012年6月末に開始したクラウドサービス「Bizホスティング Enterprise Cloud」の基盤として、NECのOpenFlowコントローラーとOpenFlowスイッチを採用した。

 実装形態は、典型的なホップ・バイ・ホップ型だ。世界9カ国11拠点を結ぶリング型の広域L2(レイヤー2)ネットワークで、世界各地のデータセンターをつなぐ。OpenFlowスイッチは、各拠点内で論理ネットワークを構成するためのスイッチと、各拠点間で論理的なネットワークを構成するためのスイッチが2系統存在する(図3)。

図3●NTTコムが導入したSDNのメリットと課題<br>クラウドサービス「Bizホスティング Enterprise Cloud」の基盤としてSDNを導入している。
図3●NTTコムが導入したSDNのメリットと課題
クラウドサービス「Bizホスティング Enterprise Cloud」の基盤としてSDNを導入している。
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 同社サービス基盤部サーバ設備部門第一サーバデザイン担当の飯室淳一担当課長は、サービス開始から1年以上が経過した中での運用側のメリットとして、「驚くほどトラブルが少なく安定稼働している。OpenFlowを使うことで、ループを気にせずネットワークの設計ができることは大きなメリット」と評価する。