ディミトリ・マークス氏はデータ分析の素養を持った「データプランナー」の必要性も主張する。販促やマーケティング、営業の社員は、サイエンティストではなくプランナーを目指す方が自分の能力を活かしつつ、成果を高めやすいからだ。

(聞き手は、酒井 耕一=日経情報ストラテジー)


データサイエンティストは“月曜日の実行リスト”を作り、常に課題と取り組むべき仕事を整理して、実行することが大切であることを著書で指摘されています。期間を区切って進むことが成果を高めるのでしょうか。

Dimitiri Maex氏
大手広告代理店、オグルヴィ・ワン・ニューヨークのマネージング・ディレクターで、同社を代表するデータサイエンティスト。ベルギー出身で、アントワープ大学で計量経済学を学んだ。クラフトフーズや欧州の飲料メーカー勤務を経て、2004年に米シスコシステムズでデータ分析を担当。その後、オグリビィに入る。データ分析の組織や手法などをわかりやすくまとめた『SEXY LITTLE NUMBERS』の邦訳は『データサイエンティストに学ぶ「分析力」』(日経BP社)。

ディミトリ データ分析と言えば、何か完璧なものを期待しがちです。特に最新技術を生かすイメージが強いのでなおさらです。

 しかし顧客相手のことなど、そうは簡単に物事が進みません。実行しても結果が出るのは後になるでしょう。でも少しずつ基本的なことを進めなくては意味がありません。

 だから私は“月曜日の実行リスト”が大切だと思っています。「明日から始めよう」では何も始まりません。データ収集やシステム整備など「今日」始めることが大事です。

利益や顧客を増やすならマーケティングの効率を高めることで十分と考える企業も多いでしょう。データサイエンティストの定義によりますが、データ重視の社風や物事の見方を定着させないと「データ分析」に優れた人材や組織は確立できないと思います。どんな人材育成や採用が大切ですか。

ディミトリ そこが米国では産業界の課題になっています。各企業がデータ分析を重視するようになり、統計学の専門家を採用することが難しくなっています。学生でも勉強している人数は限られており、新卒採用も限りがあります。そこで現実には2つの流れが起きています。

 1つは企業においてマーケティング部門の社員をよりデータ重視にシフトすることです。「データプランナー」というのでしょうか、データを見て事業における影響を調べたり、販促への応用を考えたりする仕事です。2つ目は分析の仕方を変えることです。データ解析とかプロセス分析とか新たなツールがたくさん出てきています。ここ2~3年でデータ分析の自動化が進んでいます。

 このように多様な方法でデータ分析に触れることが前進につながると思います。

 もう1つ大切なのは、データサイエンティストらが社内で他の事業部と連携することです。分析部隊として孤立しては意味がありません。社内の意思決定に役立つ存在でなくてはなりません。データを抱えていない会社はありません。それを活かせるように助言をしたり、システムを作ったり、貢献できる仕事は多いと思います。

 ビッグデータの時代と言われますが、IT機器が主役ではありません。もちろんソフトウエアやデータベースはとても大切です。しかし独自の視点と思考を持つデータサイエンスが果たす役割が大きいと思います。

 私自身の経験でもそうですが、仕事は社内のデータ分析に限りません。ある銀行のお手伝いをする時は、金融危機とか世界経済とかマクロ経済の予測も考慮に入れて進めました。世界経済が激変してうまくいかない時もありましたが、社内のデータから世界の経済まで踏まえて考える、広い視点をより求められるようになるでしょう。