前号では、マーケティングオートメーションに着手する際、CMS(コンテンツ管理システム)を活用し、企業ウェブサイト(公式ホームページ)に閉じてスモールスタートすることを提案した。今回は、その具体策を考えてみたい。

 CMSはWebサイトのコンテンツ作成や更新(本番サーバーへのアップロードや承認プロセスの自動化)などの機能を持つ。企業ウェブサイトでマーケティングオートメーションを実践する場合には、閲覧者によって表示するコンテンツを出し分けるという作業を自動的に実行することになる。

 CMSによっては、顧客データベースと連携する機能を備えているものもある。ただし、今回は顧客データベースとの連携は考慮せず、あくまでクッキーによるユーザーの識別(すなわちユーザーのブラウザの識別)で何が可能になるのかを考えてみたい。

 まず、どのような情報を活用にしてコンテンツ表示の自動化を行うか。ユーザーの端末・ブラウザ情報や流入経路など、サイトへの流入情報を使うケースと、閲覧傾向や登録の有無など、ユーザーの行動記録を使うケースに分けて見ていこう。

流入経路からコンテンツを自動出し分け

 流入経路によるユーザー識別方法としてはまず、サイトを来訪するユーザーのIPアドレスや端末の種類(PCかスマートフォンかなど)などのユーザー情報を基にするやり方が考えられる。また、来訪時の検索キーワードやリンク元情報(特定のサイトや配信メール上のURLなど)もユーザーの識別に活用することができる。

 こういった形でのコンテンツの出し分けは、従来も広告出稿時のLPO(ランディングページ・オプティマイゼーション)として行われてきた。例えば、「LEDライト」という検索ワードであるインテリアショップのサイトに流入してきたユーザーがいた場合、トップページではなく、LEDライトのページに直接着地するように設定することで、ユーザーの利便性を高め、購入を促進する。

 LPO専用のクラウドサービスも数多くあるが、CMSでもこうした機能を持つ製品が増えている。コンテンツ制作からページ内への表示までを一貫して行うメリットは大きい。様々なパターンを用意して、来訪者の目的に沿って適切なコンテンツを表示していく。さらにブランド名を検索キーワードに流入してきたユーザーに対しては、2回目以降のアクセス時には、トップページにもそのブランドのキャンペーン情報を表示するといった情報の出し分けを行う。

閲覧傾向から「ペルソナ」を作る

 次にユーザーの行動によって情報を出し分けるケースを考えてみよう。複数回の来訪経験のあるユーザーに対しては、過去の閲覧履歴や問い合わせ・会員登録の有無など、過去の行動を基にコンテンツの出し分けを行うことが可能になる。

 この場合にはあらかじめ何パターンかのペルソナ(架空の顧客像)に分類し、オートメーションのロジックを作っておく。その上で、閲覧ページの傾向からユーザーをスコアリングし、どのペルソナに最も当てはまるかを割り出してコンテンツを出し分けていく。具体的に見てみよう。

 飲料メーカーを例に取る。特定保健用食品の飲料製品を中心に閲覧し、健康に関する読み物コンテンツページをよく閲覧する「健康志向ユーザー」と、ビールなどのアルコール飲料のページを中心に閲覧しながらキャンペーンのページに頻繁に訪れる「アルコール好きユーザー」という2つのペルソナを設定する。どちらかの分類に当てはまる行動履歴を持つユーザーには、次回来訪時以降、そのペルソナに合ったコンテンツを表示する。つまり、健康志向ユーザーとアルコールユーザーでは、トップページに表示されるコンテンツが異なるようになるわけだ。

 閲覧頻度や応募登録・問い合わせの有無などから、顧客のエンゲージメント(広告に接触した回数)別にコンテンツを出し分けることも有効だろう。例えば一定期間内に何度も同じページに来訪するユーザーのみに、特別キャンペーンを用意し表示するなどのオートメーションが考えられる。

 最近のCMSは、コンテンツの管理だけではなく、ユーザー体験の管理を可能にする、という意味で、EMS(エクスペリエンス・マネジメント・システム)とも呼ばれている。過去のページ閲覧履歴からペルソナを当てはめ、次回来訪時に表示するコンテンツの内容や表示優先度を変えることで、ユーザー体験は大きく変わるはずだ。

顧客DBと連携しなくても始められる

 CMSを利用したマーケティング・オートメーションは、サイト来訪時の情報や閲覧履歴からコンテンツを出し分けるという、非常に簡易な取り組みだ。顧客データベースや既存のCRMシステムなどとのシステム連携がなく、営業部門の巻き込みなどを必要としないため、導入のハードルも低い。

 それでも、顧客の関心や接触頻度に応じた異なるコミュニケーションを事前に設計しておき、実行はツールに任せるという意味では立派にマーケティング・オートメーションのスモールスタートと言える。

 大手の企業では既に導入が進んでいるCMSだが、国内では、これまでマーケティング・オートメーションのような「動的」な機能を使えるCMSはあまり普及していなかった。オートメーション機能を利用するためには、CMSの入れ替えを行う必要も生じるだろう。

 次回は、マーケティング・オートメーション機能を有するCMSソリューションの選択肢を具体的にあげてみたいと思う。

田島 学(たじま まなぶ)
アンダーワークス代表取締役社長
田島 学(たじま まなぶ)


早稲田大学政治経済学部卒。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て2006年4月にデジタルマーケティングのコンサルティング会社アンダーワークスを設立。