6回にわたってソニー時代を振り返ってきた。今回からは再び、CIOやIT部門の役割に話を戻したい。

 再三述べてきたように、経営におけるITの戦略的重要性は、かつてないほど高まっている。今やITを上手に使うことが企業の競争優位を大きく左右する。

 ところが、その大役を担うIT部門の意欲が高まり、会社をしょって立つ自負と誇りを持って仕事に臨んでいるかというと、残念ながらそうではない。やりがいも達成感も薄いまま、増える一方の仕事を右から左にこなすことに日々汲々としているIT部員も多いのではないか。

 その原因の1つは、トップマネジメントや事業部門にある。ITが経営にもたらす価値を理解しないまま、「ITコストをもっと下げろ」という話ばかり持ち出す会社では、IT部門の意気が上がらないのも致し方ない話だ。

 しかしそれだけが問題ではない。

 IT部門自らが、社内における自分たちの地位を上げようという強い意欲を持たないがゆえに、積極的に発言することもなく、貢献が正当に認められていないという状況を容認しているというのが実情だろう。この状況を打開していくのはCIOの責任である。

CIOは「中」でなく「上」を向け

 日本企業のマネジメントは、部下の育成に熱心だ。特に、上記のような環境に置かれているIT部門では、部下のモチベーションを上げるためCIOは様々な施策に取り組んでいる。

 だが、部下は果たしてそれを望んでいるのだろうか。部門の「中」に目を配るより、むしろ、「上」や「外」を向いて、経営陣や事業部門とパートナーとしての良好な関係を築き、IT部門の地位を上げることこそが、CIOへの一番大きな期待なのではないか。

 きちんと評価されていないとしたら、役割と貢献について正しく理解、評価してもらう努力を怠ってきた結果なのだと思う。もちろん、IT部門の貢献を声高にアピールし、過大評価させるように仕向けるということではない。しかし過小評価されたままでは、いつまで経ってもITには正当な経営リソースが配分されない。少ない予算で人を減らされる一方では、モチベーションを上げろと言っても無理な相談だ。

 経営者の最も重要な仕事の一つが、リソース配分。しかしITは専門性が高いゆえに、経営者からはブラックボックスになりがちだ。正当な評価を受け、それに応じたリソースを獲得するには、CIOがビジネスの言葉でITの役割と価値を相手に分かるように伝えることが不可欠だ。

 さらに時代に伴ってIT部門の役割を再定義し、将来の方向性を決めることもCIOの大切な仕事だ。システムの開発や運用が容易に外注できるようになった今、かつての役割に固執するばかりでは評価されないのも当然だ。

 ガートナー リサーチ部門 最上級アナリストであるティナ・ヌノは「CIOは技術者でも政治家でもない」と言っている。社内政治に首を突っ込む必要は無いが、経営者に一目置かれる存在になれば「あいつの言うことはよく分からないけど聞いておこう」と思われる。

 ITに注目を集め、IT部門の地位を上げることはCIOの大切な仕事であり、本当に部下を思うなら正面から取り組むべきだ。組織や部下に逃げてはいけない。

長谷島 眞時(はせじま・しんじ)
ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム グループ バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー
元ソニーCIO
長谷島 眞時(はせじま・しんじ)1976年 ソニー入社。ブロードバンド ネットワークセンター e-システムソリューション部門の部門長を経て、2004年にCIO (最高情報責任者) 兼ソニーグローバルソリューションズ代表取締役社長 CEOに就任。ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長を経て、2008年6月ソニー業務執行役員シニアバイスプレジデントに就任した後、2012年2月に退任。2012年3月より現職。2012年9月号から12月号まで日経情報ストラテジーで「誰も言わないCIOの本音」を連載。