CIOがチーフ・イノベーション・オフィサーとしての役割を求められるようになると、将来のCIOを目指すIT担当者にとって大きな可能性が広がってくる。

 しかし現実は厳しい。事業部門出身の役員がCIOを兼務するケースが増えており、大阪ガスや帝人のように専任のCIO職を廃止する企業も出てきているのだ。「事業でITが普通に使われるようになった今、ITだけを統括する職は不要と判断した」と大阪ガスの北前副社長は話す。

 つまり、IT部門でIT関連の仕事でキャリアを積み上げただけでは、これからのCIOは務まらないということだ。自らもCIOを兼務する花王の橋本健 取締役 常務執行役員は「本来はIT部門でキャリアを積んだ人がCIOになるべき」と言うが、「ビジネスの根幹のポジションも経験し、的確な投資判断などができる」ことを条件とする。

IT部門から広い世界を目指せ

「経営が目指す方向を理解し、実現に向けた具体策を打ち出さなくてはならない」
ヤマトホールディングス
執行役員 経営戦略・IT戦略担当
小佐野 豪績(写真:陶山 勉)

 では、どうすればよいのか。ヤマトホールディングスの小佐野執行役員の若き日の経験が参考になる。小佐野執行役員は経営やビジネスの視点を身に付けることで、IT部員からCIOへと駆け上った。

 「ITによる業務改革を提案すると、必ず会計のルール、人事のルールなどを盾に拒否される。その都度、なぜダメなのかを徹底的に聞くとともに、相手から本を借りて法律や会計規則などを勉強し、解決策を探し出した」と小佐野執行役員は振り返る。社長に「君は経営が分かっていない」と言われた時も、悔しくて経営学を懸命に学んだ。そうした過程で、社内で気軽に相談や議論ができる人的ネットワークも築いていったという。

 つまり小佐野CIOは若い頃からIT部門の狭い世界に閉じこもるのではなく、ビジネスの視点で課題を探し解決策を見つけようとした。その結果としてCIOの資質を身に付けていったわけだ。

「これからのCIOはチーフ・イノベーション・オフィサーの役割が求められる」
帝人
帝人グループ執行役員 経営企画本部長
山本 員裕(写真:陶山 勉)

 帝人のCIOである山本 帝人グループ執行役員は、「事業部門が求める通りのシステムを作るのがIT担当者の仕事という意識が今でも残っているのか、IT担当者は事業部門に従属してしまう傾向がある。これを打破しないといけない」と話す。帝人は今、IT部門の再強化などの改革を進めている。このままでは未来のCIOどころか、今求められるIT人材が育たないからだ。

 龍馬は脱藩により、武士でありながら藩の支配を受ける郷士の立場から脱却することで、イノベーターへと飛躍した。未来のCIOを目指すなら、ビジネスの広い天地を求めてみてはどうか。