農産品の関税撤廃を迫られるとして警戒感をあらわにする農業関係者と、輸出面で有利になるため交渉妥結を期待する企業。TPP(環太平洋経済連携協定)交渉を巡り、全国各地でそうした葛藤が生じている。しかしTPP交渉の結果がどうであろうと、このままでは農家の高齢化や工場の海外移転が進み、地方は確実に衰退していく。
そんな状況を変えようと、フィディアホールディングスのCIOである吉本副社長は銀行の立場で、農産品の生産から加工・流通までを一体で手掛ける「農業の6次産業化」やスマートシティなどの取り組みを推進しようとしている。国や地方の行政に働きかけるとともに、行内で勉強会を開いて営業担当者にそうした案件の発掘や提案を促す。もちろん、こうした取り組みにはITが不可欠。CIOである吉本副社長が主導するのはそのためだ。
事業部門とIT部門で目標を共有
吉本副社長は、農家や企業、行政などをつないで、IT活用による新規ビジネスの創出を図ろうとしている。
例えば、農業の6次産業化の取り組みで、農家と企業を結び付けてネット通販ビジネスを生み出す。あるいは、海外移転した工場の施設を利用して、ITで制御する巨大な植物工場を造る、といった具合だ。

ITステーション ディレクター
佐藤 達(写真:陶山 勉)
「新規ビジネスの創出を支援する取り組みを通じて地域を活性化し、起業などの資金需要を生み出す。さらに、農業を輸出産業に育てて銀行の外為業務の強化にもつなげたい」と吉本副社長は“農産同盟”の可能性を語る。
金融以外のビジネスが規制されている銀行と違い、自ら新たなビジネスに取り組める一般の企業では、CIOはIT活用の観点から社内の事業部門や社外のパートナー企業、そして自らが管掌するIT部門を結び付けて、新たなビジネスを生み出す役割を果たせる。なかでも特に重要なのが、ともすると“水と油の関係”になりがちなIT部門と事業部門が共通の目標に向けて協力できる関係を作り上げることだ。
例えば、ビジネスにITをフル活用して、今やシステム産業と言ってよいコンビニエンスストア。ローソンの佐藤執行役員は「IT部門と事業部門が『店にお客様がたくさん来てくれて嬉しい』という意識を共有することが一番大事なこと」と話す。この意識の共有をベースに、ITを活用した新サービスなどを次々に生み出しているわけだ。