2013年8月20日、厚生労働省の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が、労働者派遣制度の見直し案を盛り込んだ報告書を公表した。同省は2013年中に「改正労働者派遣法案」の骨子をまとめ、2014年の通常国会での法案提出を目指す。

 「複雑だった派遣制度がシンプルで分かりやすくなる」と、厚生労働省の富田望職業安定局 派遣・有期労働対策部需給調整事業課長は説明する。だが、IT業界やユーザー企業のシステム部門への影響は大きそうだ。

 着目すべき点は二つある。IT技術者を含む専門26業務の撤廃と、特定労働者派遣における「常時雇用」の定義の見直し、である。これにより、ITベンダーはユーザー企業などに派遣している技術者の雇用契約を見直す必要が出てくる。ユーザー企業は、自社に派遣されている技術者が3年ごとに交代する可能性がある()。

表●IT業界における人材派遣制度の見直し案の影響
表●IT業界における人材派遣制度の見直し案の影響
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 IT業界における技術者派遣の形態は、大きく二つに分けられる。人材派遣事業者が登録技術者をITベンダーやユーザー企業に派遣する「一般労働者派遣」と、人材派遣事業者やITベンダーが直接雇用している技術者をユーザー企業などに派遣する「特定労働者派遣」である。

 専門26業務の撤廃は、一般労働者派遣と特定労働者派遣の双方に影響を与える。専門26業務に含まれるIT技術者は現在、派遣期間に制限がない。一方、厚労省の見直し案では最長3年になる。

 特定労働者派遣における「常時雇用」の見直しも影響は大きい。現在は、有期契約の契約社員であっても、1年を超えて継続的な雇用見込みがあれば常時雇用とみなされている。ITベンダーの契約社員がユーザー企業などに派遣される場合、期間に制限はない。

 だが、厚労省は常時雇用の定義を見直し、無期雇用の人材だけを特定労働者派遣の対象にし、派遣期間に制限を設けない方針だ。もしも有期雇用の契約社員などを派遣する場合、ITベンダーは一般労働者派遣事業者の認可が必要になる。その場合でも、派遣期間は最長3年に制限される。

 同省が2013年3月に実施した「派遣労働者実態調査」によると、ソフトウエア開発に携わる派遣技術者の約8割が有期雇用だったという。契約社員の特定労働者派遣をなくすことで「雇用の安定につなげる」(富田課長)という。ただし、それがコストアップ要因となりユーザー企業に跳ね返ってくる可能性も否めない。

 人材派遣制度見直しに関連する報告書について、厚労省は今後、同省が主催する「労働政策審議会」で議論を重ねていく予定だ。