邦題を見ると半導体の開発手法を解説した本と思うかもしれないが、原著の副題に“Designing the Future with Science Fiction”とある通り、未来をデザインする手法「サイエンスフィクション(SF)プロトタイピング」に関する書籍である。米インテルについての記述はごく一部に過ぎないのに、この邦題が付けられたのは、本書の著者がインテル社員であるためだ。といっても半導体製品の開発者ではなく「2020年以降のコンピュータやガジェットの現実的な姿を考える」という「フューチャリスト(未来研究者)」である。

 SFプロトタイピングは現実の「テクノロジーによる含意や効果、影響の探求を目的とした(中略)短編小説、映画、あるいはコミック」の創作を意味し、これらを「SFプロトタイプ」と呼ぶ。創作する目的は、技術者や研究者、事業者、利用者たちが「テクノロジーと未来に関する対話を始めること」。なぜSFを使うのかと言えば「人々の想像力をかきたて、考え方を変えてしまう力がある」からだ。

 著者は「未来を形作るのはわれわれ自身」であり、「未来に向けて行動するべき」と呼びかける。以下の記述を見ると、企業の情報システムの担い手も対象と言える。「いやしくも電気技術者を名乗る人間なら、想像力と未来観を持っていなければならない」「21世紀における活動家の仕事とは、世の中を変えるためにテクノロジーをどう使うか把握することにある」。監修者の細谷功氏は、想像力に関して大半の人も組織もトレーニングされていないし確立された方法論もなかった、そのニーズに応えるのが本書と指摘している。

 著者は短編小説、映画、コミックのそれぞれについて簡単な歴史を述べ、識者との対話を紹介し、SFプロトタイピングのやり方を語り、そのつど「くれぐれも楽しんで作業することを忘れずに」と助言する。楽しまない限り、人々の想像力をかきたてるSFプロトタイプは作れないだろう。

 言及されるSF作品や作家、識者の大半を評者が知らなかったためか、やや読みにくい箇所があったものの、SFプロタイプの実例として収録された短編小説3編は興味深かった。いずれも不気味な内容だが、AI(人工知能)やロボット、センサーネットワークの研究や開発で実際に使われているそうだ。

インテルの製品開発を支えるSFプロトタイピング


インテルの製品開発を支えるSFプロトタイピング
ブライアン・デイビッド・ジョンソン 著
細谷 功 監修
島本 範之 訳
亜紀書房発行
2310円(税込)