大分空港から自動車で1時間半。緑豊かな大分県日田市の山間に、国内屈指の大規模酪農企業、本川牧場がある。東京ドーム8.5個がすっぽり入る大きさの敷地と県内外の預託先に約5000頭の牛を飼育する同社は、日本に数えるほどしかない、いわゆる「ギガファーム」の1つ。年間1万トンを超える生乳の出荷量は全国4位という。

 50頭の牛から同時に乳を搾る大型設備を整えた搾乳棟には、子牛を生んで乳が出る状態にある約1800頭の牛がゆっくりとやってくる。そして搾乳を終えるとのんびり歩いて牛舎に帰っていく(写真1)。別の牛舎では生後間もない子牛がミルクを飲んだり互いに触れ合ったり、思い思いの時間を過ごしている。その様子を眺めていると、大規模酪農もおおかた「牛任せ」で日々の作業が進んでいるかのような感覚になる。

写真1●本川牧場は総面積約40ヘクタールの敷地と県内外の預託先に約5000頭の牛を飼育している
写真1●本川牧場は総面積約40ヘクタールの敷地と県内外の預託先に約5000頭の牛を飼育している
左は、生後間もない子牛を飼育する哺乳牛舎、右は50頭の牛を同時に搾乳できる回転式の大型設備を備える搾乳棟。
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 しかし、それは錯覚に過ぎない。実は本川牧場は最新のITを積極的に取り入れ、事業規模を拡大してきたIT 経営の先進企業である。RFID(無線ICタグ)を用いた牛1頭ごとの搾乳量管理や万歩計を使った運動量の把握はもちろん、それらの情報を参考に牛の健康状態や繁殖時期を正確につかむなど、緻密な計算に基づいて生産性を高めてきた。最近ではクラウドコンピューティングやタブレット端末を導入して情報の管理・活用を高度化し、一層の生産性向上に挑んでいる(図1)。その結果、飼育頭数はほぼ同数のまま生乳の出荷量を1日当たり2トンも伸ばすことができた。

図1●クラウドサービスを活用して構築した牛の管理用システムの画面例
図1●クラウドサービスを活用して構築した牛の管理用システムの画面例
繁殖実績や分娩予定日、直近2週間分の乳量、人工授精や受精卵移植の回数など300項目の情報を、1頭ずつ割り振った識別番号に紐づけて管理している。
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