2013年8月20日、東京大学本郷キャンパス情報学環・福武ホールで、子ども向けのプログラミング教育をテーマとしたイベントが開催された(写真1)。イベント名は「子どもたちにプログラミングを教えよう! ICTとイノベーションを支えるプログラミング教育」(主催:NPO法人 CANVAS/日経BP社)。教育分野の活動家や研究者、ICT関連製品/部品を提供するメーカーなどが参画。講演者および展示者と聴講者との間で、活発な質疑応答や意見交換がなされた。

写真1●イベントは福武ホール内の福武ラーニングシアターで開催された。シアターの定員184席が満席になるほど盛況だった
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 基調講演に登壇したのは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボのミッチェル・レズニック教授(写真2)。レズニック教授は「Learn to code, code to Learn」(プログラミングを学び、プログラミングで学ぶ)と題して、子ども向けのプログラミング学習がもたらす効果やその意義について語った。

写真2●米マサチューセッツ工科大学メディアラボのミッチェル・レズニック教授。子ども向けのプログラミング学習がもたらす効果やその意義について語った
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 MITメディアラボ内のライフロング・キンダーガーデングループでは、教育向けのビジュアルプログラミング環境である「Scratch(スクラッチ)」を開発し無償提供している。条件や動作を指定する「ブロック」と画像などを開発画面上で組み合わせることで、インタラクティブなアニメーションやプレゼンテーション、ゲームなどを作成できる。ライフロング・キンダーガーデングループの活動はレズニック教授が主導している。

 レズニック教授は「コードを書くことは職業プログラマーのものだけではない」とし、プログラミングの能力を身に付けることは、読み書きの能力を身に付けることに等しいと語る。

 読み書きができるからといって、それを職業レベルに引き上げて職業ライターになる人は少ない。レズニック教授は「それでも多くの人は文章を書く」とした上で、「人は文章を書くことを通じて自分を表現し、他者とコミュニケーションし、ものごとを深く学ぶ。プログラミングもそれと同じで、実はあらゆる人にとって価値のある行為だ」と話す。「コードを書くことで人はより多くのことを創造し、他者とコミュニケーションし、より深く学べるようになる。つまりプログラミングの能力は創造的な生活を支える」(レズニック教授)。

 またレズニック教授は、ゲームにスコアの機能を付与したい子どもに変数の使い方を教えたところ大変感謝されたというエピソードを紹介した。「数学の先生が生徒に代数学を教えて、生徒からこんなに感謝されたことがあっただろうか」と聴講者の笑いを誘った後に、「子どもたちは表現したいことがあるときであれば、自ら進んで粘り強く学ぼうとする」と指摘。プログラミング教育がもたらす学習効果の高さについて重ねて強調した。