写真1●戸塚区不動産センターの店舗
写真1●戸塚区不動産センターの店舗
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写真2●店舗で接客する高鳥修一社長
写真2●店舗で接客する高鳥修一社長

 戸塚区不動産センターの屋号で事業を展開するエントリーは、取り扱う物件を横浜市戸塚区に限定した不動産仲介業者である。同社はITシステムの活用を進めながら地域密着型企業として大手不動産会社支店との差別化を図っている(写真1)。祖父から3代にわたって続く不動産業の経験を活かし、同社を創業して地域顧客へのきめ細かいサービスの提供を実現しているのが代表取締役である高鳥修一社長だ(写真2)。

 不動産業界ではライフスタイルの多様化に伴って、顧客の嗜好が大きく変化している。さまざまな嗜好の顧客に対応していくには、目立つ場所に店舗を構え、お勧め物件をいくつか店頭に掲示するといった従来のスタイルでは顧客の興味を引き付けることができない。また、人海戦術によるポスティングや電話などで大規模に営業を展開する大手の戦略も、零細の不動産業者においては機能しない。そもそも不動産の売買は、一人の顧客にとっては一生のうちに何度もあるものではなく、既存顧客のリピートよりも新規顧客の開拓が重要である。

 このような状況の中、高鳥社長はITシステムが果たす役割が非常に大きいと感じていた。ITシステムいかんにより、大手の競争相手と同じ土俵で戦い、差別化を図ることができるかどうかが決まってくる。こう考え、同氏は同業他社の成功事例や、異業種のITシステム導入事例、さらには不動産業界向けに開発されたパッケージソフトウエアなどの導入を検討したという。しかし、パッケージには一般的な機能こそあるものの、自社の強みを強化する細かい機能が不足しており、導入によって差別化を図ることは難しかった。

零細不動産業者でありながら独自システムの開発を決断

 そこで高鳥社長は、少ない営業担当者で効果的に新規顧客を獲得するため、物件および見込み顧客の情報を一元管理する独自システムの開発を決意する。同システムには、地域の物件情報と購入希望者情報をきめ細かく記録。物件情報と購入希望者情報を結び付け、効率的な営業活動につなげる。零細企業だからこそ可能な営業活動がこのITシステムによって創り出せる──と考えた。

 システム開発に当たっては、必要な機能のプロトタイプ(試作品)を何度も作り、利用者の意見を反映させながら完成に近づける「アジャイル開発」的な開発プロセスを採用した。高鳥社長が陣頭指揮をとり、ベンダーと折衝したり協力したりしながら開発を進めたという。結果、パッケージでは得られない、競争優位性を同システムで確立・維持することが可能となり、システム稼働から5年以上が経過する現在に至っても、競合他社との差別化を図ることが可能になっている。

 同社の特徴は、独自ITシステムを導入したことだけではない。ターゲット顧客を明確にし、ターゲット顧客に提供する付加価値を追い求める経営戦略にある。購入を希望する顧客と売却を希望する顧客のニーズを明確に分けて考え、購入を希望する顧客に対しては、新鮮な物件情報を競合他社よりも多く素早く公開する。また、希望に合った物件を顧客ごとにタイムリーに提供することが付加価値になると考えている。

 一方、売却を希望する顧客には物件がいくらで売れるのかといった不安がある。売却資金を必要とする顧客には、物件がすぐに売れるのかといった不安もあるだろう。同社はこうした不安をできるだけ少なくするサービスこそが顧客に対する付加価値であると考えている。

 また、物件の情報収集を主に行う早期ステージの顧客については必要以上の接触を避け、さらには顧客が相談を求める次のステージでは、あたかも顧客の友人や親せきのように、相手の気持ちを思いやって接することが、顧客満足度を高める大きな要素だと理解している。