SEの仕事は、創造的であるべきだと思う。システム開発とは、新しいビジネスや業務プロセスをつくることであり、言い換えると、今までに存在しないものを生み出す仕事であるからだ。SEが仕事に取り組むにあたっては、システムを発注する立場の「オーナー部門」と一緒に、創造力を発揮していく必要がある。そのための一つの手段が、「フューチャーセンター」と呼ぶ「場」の設置である。

 「フューチャーセンター」は、「未来を想像しながら、難しい問題を、対話によって解き明かすために、特別に設計された空間・環境」である。一橋大学大学院の野中郁次郎教授が提唱するナレッジマネジメント手法「SECIモデル」に代表される、知識創造の考え方に基づき、関係者の対話によって創造力を発揮させるためのものだ。

 フューチャーセンターには、特定のテーマにかかわるすべてのステークホルダーが集まる。そこで、参加者全員が所属組織や上下関係といった裃を脱ぎ、人間に備わった発想力を駆使して、創造力と情熱を主体的に生み出す。

 想像力を発揮するのに、フューチャーセンターのような「場」が必要なのは、組織のなかで従来の枠組みに従って物事を考えていたら、なかなか創造力を発揮できないのが現実であるからだ。個人で考え込んでも、いいものが生まれることは少ないし、関係者が集まったとしても、普段の会議形式では過去に存在しないものを生み出しにくい。

 フューチャーセンターは、1990年代半ばに欧州の政府機関や企業が設置したのが始まりで、その後、世界中で普及したようだ。行政機関が設置したもののなかには、一般市民に公開されているケースもあるという。

 例えばオランダのフューチャーセンター「カントリーハウス」は、四つの省庁が共同で運営している。目的は、公務員の想像力とイノベーション能力を高めること、省庁間の壁を取り払って政策を立案すること、などである。

「間違いを恐れず本音を言える」

写真●東京海上日動システムズにおける「フューチャーセンター」でのワークショップの様子
写真●東京海上日動システムズにおける「フューチャーセンター」でのワークショップの様子
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 欧州にあやかり、当社でもフューチャーセンターを2009年4月に設置して、創造力を高めるためのチャレンジを始めている。設置にあたっては、四つの点に配慮した。第一に、通常の会議室とは異なる特別な場所を設けることで、リラックスして問題に集中できる環境を整えた。

 第二に、フューチャーセンターの運営事務局を発足させている。事務局が、社員から持ち込まれたテーマに応じて、実施するワークショップを設計している。この設計にこそ、大きな価値がある。通常の「会議」と違って、暗黙知を引き出す効果が絶大である。

 第三に、ワークショップの運営者である「ファシリテータ」を育成している。第四に、社内の各組織あるいはチームが、解決したい課題を自主的に持ち込んでワークショップを開く方式を採っている。

 これら4点に共通する考え方は、テーマや議論そのものはメンバーの自主性に任せるが、運営の仕組みはきちんと用意する、といったことである。

 当社における、フューチャーセンターでのワークショップの事例を二つ紹介しよう。まず一つめのAチームのテーマは「組織活性化に向けた、部内のビジョン共有と、重点目標の発見」であった。リーダーの思いは、「普段は、目の前の問題に焦点が当たることが多いが、改めてチームや組織の理想的な姿について考える場を持ち、全員のメンバーと一緒に考えてみたい」というものだった。