国内外の企業事例を基に、製品やサービスの価値をゼロから捉え直し、競争の土俵を変える「リ・インベンション(再発明)」の必要性を説く。神戸大学大学院の三品ゼミが研究成果をまとめたビジネス書だ。

 本書でリ・インベンションと対を成すのは「イノベーション(革新)」であり、筆者らは「儲からないもの」と断じる。一例が1950年代からの技術革新で飛躍的に生産能力が高まった自動織機だ。日本メーカーは70年代から主導権を握り、明治期と比べて1000倍もの生産性向上を達成した。しかし革新は織機メーカーに利益をもたらさず、90年代から中国メーカーの追従などを受け事業縮小や撤退に追い込まれた。

 この事例研究から分かるように、本書が定義するイノベーションは「主に技術的なブレークスルーに支えられた製品の飛躍的な高機能化や性能改善」とやや狭い意味で使われている。ネット接続で先行した日本の携帯電話やコンパクト・デジタルカメラなども、儲からなかったイノベーションの例である。

 一方、リ・インベンションは従来の評価指標を投げ捨て、全く新しい価値基準を打ち立ててこそ達成できるものだ。具体例として、エアバッグ機構を採用した「頭にかぶらない自転車用ヘルメット」やスイスのネスレが開発した家庭用エスプレッソ・メーカー「ネスプレッソ」、ソニーの「ウォークマン」など九つの事例を挙げ、「再発明」の経緯を解き明かしている。例えば「かぶらないヘルメット」は「髪型が乱れる」などヘルメットを嫌っていたユーザーの不満を解消した。エアバッグ作動後は安価にユニットを交換でき、同時に事故データを収集、解析することで対応できる事故場面を増やしている。他社の追従は困難だ。

 本書は多くの事例でソフトウエアやオペレーションが製品の強みを支えている点にも着目し、その強化を訴えている。製造力でなく構想力で勝負するという経営のコンセプトは、「モノ作り神話から決別しよう」という筆者から日本企業へのメッセージでもある。

 評者 甲元 宏明
大手製造業でシステム開発やIT戦略立案に携わり、2007年アイ・ティ・アール入社。シニア・アナリストとしてユーザー企業やITベンダーの戦略立案を指南する。
リ・インベンション


リ・インベンション
三品 和広/三品ゼミ 著
東洋経済新報社発行
2100円(税込)


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