システムの開発者とユーザーの認識のギャップはあらゆる場面に潜んでいる。顕著に出やすいのがプロジェクトの初期段階である。例えば、要件定義のために、利用者ヒアリングのスケジュールを検討する場面がそうだ。次のようなやり取りになることがしばしば見受けられる。

開発者(ベンダーのプロマネ)「利用部門である営業部にヒアリングを実施したい。スケジュールもタイトなので来週の前半で社内調整をお願いしたい」

ユーザー(システム部門の担当者)「いきなり来週前半にと言われても今からでは調整は難しい。もっと早く言ってほしかった。それに営業部にヒアリングを実施するのであれば、それなりの準備や段取りが必要となる。資料はそちらで準備してもらえるのか?」

開発者「ヒアリングの設問はこちらで用意しておく。営業部の担当者は手ぶらで来てもらって構わない」

ユーザー「それでは積極的にヒアリングに参加してくれないかもしれない」

開発者「どういうこと?」

 開発者の認識はこうだ。提示済みのスケジュール表でこの時期は利用者ヒアリングを実施すると明示しているはずだ。それに営業部は同じ社内なのだから、ちょっとスケジュールを確認してもらえればすぐに分かるのではないか。ヒアリングはこちら側が準備して行うので、担当者には時間を取ってもらうだけでいい。

 ユーザーの認識は異なる。営業部は忙しいし、外出していることが多い。スケジュールを調整してもらうにしても、打診してから返事をもらえるまでに数日待たされることも多い。できれば早めに「この時期で空いている時間はあるか」とある程度確認してから本格調整に入りたい。また、いきなり「ヒアリングに協力してほしい」と頼んでも「何を聞かれるの?何を答えればいいの?」と警戒心を持たれてしまうこともある。そうなると、忙しいからと逃げられてしまう。口頭で打診するのではなく、レターなどの文書で事前に「今回のヒアリングは、○○を目的として行う。お聞きしたいのはざっとこんな内容である」といった情報を提供した上で依頼したい。

 開発者は、スケジュールをキープするために、予定通りにヒアリングすることに大きな関心がある。一方のユーザーは、利用部門である営業部の担当者への依頼をスムーズに行うために、必要な根回しの重要性に注意を払っている。これらはどちらも重要であり、開発者とユーザーはお互いに相手の関心事を理解し、それらが両立するように協力し合わねばならない。

 さもないと、この最初のギャップがその後のプロジェクトの進行に大きな悪影響を及ぼす恐れがある。まず怖いのが、お互いに「こんな対応をする相手で大丈夫か?」という不信感が芽生えてしまうことだ。そして現実的な問題として、利用者ヒアリングの日程調整に手間取り、プロジェクトの初期段階でスケジュール遅延が発生してしまうことがある。

 プロジェクト初期のギャップは小さなものが多い。それをボヤのうちに消しておくことが大事なのである。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「RFP&提案書完全マニュアル」「事例で学ぶRFP作成術 実践マニュアル」(共に日経BP社)など