データ化で「ゴミが宝」になる

 著者の1人であるクキエ氏は英『エコノミスト』誌の記者として、2010年に「ビッグデータ」の価値を一般向けに初めて記事で紹介した。英オックスフォード大学の研究者であるマイヤー=ショーンベルガー氏と、産業や政治、犯罪捜査、さらに民主主義までいかにビッグデータが世界を変えていくかを解説したのが本書である。

 冒頭は分かりやすい。格安の航空券を手に入れるためにはいかにデータ分析が大切かを説く。注目すべきは「ゴミが宝になる」という指摘。人の居場所やエンジンの振動、橋の歪みなどこれまでは情報と見なされていなかった事実や現象をデータ化すれば、新たな予測分析や価値創造ができると強調する。いずれ全世界がデータ化されるというわけだ。

 こうなると人間の感性よりデータがモノをいうようになる。典型例はアマゾン・ドットコムのお薦め本。文芸評論家が寄稿するよりも、ユーザーが以前に検索した本を画面に出したほうが売れ行きはいい。こうして書評家は去り、膨大なデータが重宝されるようになった。疾病研究所の調査に頼るよりも、グーグルの検索動向を分析したほうがインフルエンザの流行をいち早くつかめるといった指摘もある。

 経済効果の追求だけではなく、人々の幸福や弱者保護などヒューマニズムを持ったデータサイエンティストの育成がビッグデータ時代の主題といえるだろう。

ビッグデータの正体


ビッグデータの正体
ビクター・マイヤー=ショーンベルガー/ケネス・クキエ 著
斎藤 栄一郎 訳
講談社発行
1890円(税込)


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