科学の進歩に貢献できるのは、高度な専門知識と才能を兼ね備えた一部の専門家だけである──。こうした常識が、ネットを通じた協業や、知識を集約する「集合知」などによって崩れようとしている。本書は、科学研究の分野で起こる新しい革命を追う。

 例えば、ブログを通じて多人数の知恵を集めて数学の難問を解く「ポリマス・プロジェクト」は、短期間で新たな解法を得るなどの成果を上げた。膨大な天体画像をネットで公開し銀河を分類する「ギャラクシー・ズー」では、全く新しい「グリーンピース型銀河」を発見した。どちらも専門家のほか多くのアマチュアの参加が成功を支えている。Linux開発プロジェクトが成功したのは、オンライン協業ツールの発達が背景にあったという。

 現在、天文学で最も大きな成果を生んでいるのは、遠隔操作望遠鏡の観測データを宇宙地図にして、インターネット上でデータを大量に公開している「SDSS」と呼ぶプロジェクトである。公開データを世界の天文学者が分析し、ブラックホールなど新天体の発見が相次いでいる。著者はこうした研究手法を「データウェブ」と呼ぶ。科学分野のビッグデータであり、膨大なデータを活用すれば単純な解析でも新たな知見が得られるという。最も差し迫った応用分野が、遺伝子工学や生命科学である。

 研究者を対象にした「サイエンスウィキ」が低調にとどまるなど、成功だけでなく失敗事例にも言及している。著者は、参加者のインセンティブ(動機付け)が重要な視点であり、「(論文など成果の)引用」「評価」「報酬」を明確にすることが動機付けの一つになると指摘している。例えば、科学発見に対する貢献を分析して成果を配分するのである。

 オープンサイエンスの考え方は、企業での協業や情報共有を促進させる際にも生かせそうだ。参加者を適切に評価し報酬を与える仕組みがあれば、企業内にもオープンな協業が根付く可能性を感じた。

 評者 村林 聡
銀行における情報システムの企画・設計・開発に一貫して従事。三和銀行、UFJ銀行を経て、現在は三菱東京UFJ銀行常務取締役コーポレートサービス長。
オープンサイエンス革命


オープンサイエンス革命
マイケル・ニールセン 著
高橋 洋 訳
紀伊國屋書店発行
2310円(税込)