前回は、国際的な情報保護の潮流に触れつつ、総務省「スマートフォン プライバシー イニシアティブ」の報告内容を紹介した。今回は、経済産業省主催の「IT融合フォーラム」パーソナルデータワーキンググループから2013年5月に出た報告書の内容も踏まえつつ、動向の解説を進める。特にライフログ系のデータ活用に当たって、消費者から反感を買わないようにするための事前説明の工夫なども、大きなテーマとして浮上しつつある。

城田 この対談のテーマとの関係で、最近、大きな動きがありましたね。

岡村 経済産業省と総務省から、相次いで報告書、報告書案が提出されました。どちらも、ビッグデータの利活用に向けて、パーソナルデータ関係のプライバシーに関する課題を検討したものです。

 実は、これらの報告書が出るのを待っていたのです。そのため、しばらく、この対談の再開時期を見計らっていました。

城田 岡村先生は、総務省主催の「パーソナルデータの利用・流通に関する研究会」と「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の構成員をされていますよね。私は、経済産業省主催の「IT融合フォーラム」パーソナルデータワーキンググループ(以下WG)の委員をしておりましたので、それぞれの報告書について見ていきたいと思います。

* ビッグデータのライフログを議論の対象としたものとして、「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」では、すでに公表された「スマートフォン プライバシー イニシアティブ」に続いて、次はこれがパブコメ中。
 「スマートフォン プライバシー イニシアティブII」
 http://www.soumu.go.jp/main_content/000236366.pdf
写真●IT融合フォーラム パーソナルデータワーキンググループ報告書
写真●IT融合フォーラム パーソナルデータワーキンググループ報告書
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 まずは、経済産業省のパーソナルデータWGの報告書「パーソナルデータ利活用の基盤となる消費者と事業者の信頼関係の構築に向けて」(2013年5月10日、写真)から見ていくことにしましょう。

城田 この報告書の表題には「ビッグデータ」という言葉は登場しませんが、本文の「はじめに」で、「あらゆる産業分野において、膨大なデータをいかに活用するかが競争上重要になってきている。こうした状況を捉えて、“ビッグデータ”の活用の重要性が叫ばれている(略)」と書いてある通り、ビッグデータが背景にあります。

 この対談の第1回で、岡村先生はビッグデータについて「データの属性が、ライフログ系なのか、M2M(マシン・ツー・マシン)系なのか」という視点を指摘されています。報告書の「はじめに」の最後に書かれていますが、このWGでは、ビッグデータの中でも、パーソナルデータの利活用を進めるうえでの個人情報、プライバシー等に関する課題を中心に解決策を検討してきました。ですから、岡村先生の言葉を借りますと、ビッグデータの中のライフログ系を対象としたものとなります。ちなみに、“パーソナルデータ”という言葉と“個人情報”という言葉の違いについて、法律の専門家の立場から解説していただけますか?

岡村 パーソナルデータのことを、この報告書では、個人情報保護法に規定する「個人情報」に限らず、位置情報や購買履歴など広く個人に関する個人識別性のない情報を含むとしています。従って、わが国の個人情報保護法において個人情報保護法の対象情報となる個人識別情報よりも、さらに広く捉えていると考えて下さい。

 なぜ「個人情報」という言葉を使わないのかと思われる読者もおられるかもしれませんが、このように、必ずしも個人識別性が認められない情報についても、プライバシーとの関係で問題となる余地があることから、わざわざパーソナルデータという別の言葉を使っているのです。