「システム刷新を機にパブリッククラウドに移行したいと考えたユーザー企業から、所有しているミドルウエアのライセンスをクラウドでも使えるか、といった問い合わせが増えてきた」。ニフティの濱中 慶氏(クラウド事業部 クラウドビジネス部 課長)はこう話す。パブリッククラウドで重要な業務システムを構築する動きが本格化しており、それに伴って商用ソフトをクラウドで使うケースが増えてきたことの一例である。

 クラウドで商用ソフトを使う場合、オンプレミスとは課金体系や利用する条件が異なる場合がある。こうした違いは、ソフトメーカーごと、製品ごとに異なり、複雑だ。大塚商会の高井瑞穂氏(共通基盤プロモーション部 ライセンス課 Microsoft担当 課長代理)は「セットで導入されることが多い、Windows ServerとSQL Serverですら課金体系が違う。ライセンスの複雑さは一筋縄ではいかない」という。

 「そんな複雑なライセンスの問題は専門家に任せればいい」「ITエンジニアはそんなことを気にする必要はない」と考えるかもしれない。しかし、そう考えるのは間違いだ。

 システム設計を行う上でライセンスの知識は必要である。特にクラウドでは、ライセンスによって採用可能なシステム構成に制限が生じる場合があるからだ。プロジェクトマネジメントにおいても、コストやリスクの観点から、ライセンスで何が問題になりやすいかを理解しておきたい。

 そこでこの記事では、ITエンジニアが知っておくべきクラウド上のライセンスの注意点について解説する。取り上げるソフトウエアは、商用のOSとミドルウエアである。アプリケーションはユーザー数に応じた課金である場合が多く、クラウドとオンプレミスで大きな差はないため、この記事では対象外とした。

 以降では、まずライセンスを理解する前提知識として、クラウド上で商用ソフトを利用するのにどのような形態があるのかについて整理する。続いて、クラウド上のライセンスの注意点を解説する。

ライセンス持ち込みとサービス利用

 クラウドで商用ソフトを利用する場合、大きく分けて二つの利用形態がある(図1)。

図1●クラウド上で商用ソフトを利用する際の二つのライセンス形態
図1●クラウド上で商用ソフトを利用する際の二つのライセンス形態
(1)ライセンス持ち込み、(2)サービス利用という二つの形態がある
[画像のクリックで拡大表示]

 一つは「ライセンス持ち込み」である。ユーザーがライセンスをソフトメーカーから購入し、あるいは手持ちのライセンスを使い、クラウド上のサーバーにソフトウエアを導入する、というものだ。サーバーがクラウド上にあるというだけで、利用形態としてはオンプレミスに近い。

 ライセンス持ち込みのメリットは、既に所有しているライセンスを使える可能性があることだ。オンプレミスからクラウドにシステムを移行するとき、手持ちのライセンスが使える分コストを抑えられる。

 もう一つの形態は「サービス利用」。クラウド事業者が提供するサービスとして商用ソフトを利用するものだ。言い換えると、クラウド事業者がソフトメーカーから購入したライセンスを借りる形である。例えば、仮想サーバーを利用する際、オプションとして追加料金を支払い、Windows ServerやSQL Serverをサービスとして使う、といったものだ。