サラリーマン分析者は、少しでも楽をしようとする、少しでも得をしようとする──。

 大阪ガスのデータサイエンティストである著者は、こう指摘する。この誘惑に打ち勝てるのは、「自分が作った数字は経営を左右する」という責任感だけ、という。

 本書は、日本を代表するデータサイエンティストである著者による初の書籍だ。大阪ガスでの10年以上に及ぶデータ分析実績や米国ローレンスバークレー国立研究所での勤務体験を踏まえて、著者が持論を展開している(関連記事:「データサイエンスを採用するか、それとも死か」、受け入れなければ競合が先に行く )。

 「会社を変える分析の力」というタイトルには、著者の「データ分析は意思決定に役立つ」という揺るがない信念が反映されている。かつては「彼に頼めば、どんなデータ分析でもやってくれる」と“便利屋”扱いされた苦い経験があり、そこから自分の存在意義を問い直したのだという。そして行き着いたのが、意思決定者と同じ視線で分析を行うスタイルだった。

 本書のなかでも特に印象深いのが、後半に紹介されている「分析者九カ条」。著者の経験に裏打ちされた、活躍できる分析者に共通する行動パターンを習慣づけることを勧めている。

 「整理整頓を心がけよう」「他人のデータを疑おう」「ざっくり計算」「文章を書こう」など。特に整理整頓やざっくり計算(理解)は、著者にとってのデータサイエンティストとしての修行時代に当たる、米国での研究所生活の経験が色濃く反映されている。

 例えば、科学における重要な概念である「再現性」の求めに応じるには、別の分析者でも理解できるように、データや分析ファイルは整理整頓されていなければならない。データサイエンスも同様だ。著者は研究所では上司に何度も「Get organized!(整理しろ!)」と言われたという。同じように「Ballpark Estimate(野球場でのおおよその入場者数の発表=つまり、ざっくり計算するの意味)」とも言われ続けた。

 著者のようにデータサイエンティストとしての経験談を実務に根ざして語れる人は、日本にはまだほとんどいない。これからデータサイエンティストを目指す人にとって、この本は必読の1冊になるだろう。

会社を変える分析の力


会社を変える分析の力
河本 薫 著
講談社発行
798円(税込)