先日、ある企業で管理職研修を担当したときのこと。40代のマネジャーが「今は、やたらと褒めたほうがいいって言いますよね。でも、褒め方がよくわからないんですよ」と漏らしました。

 そのマネジャーは「なぜ褒め方がわからないのかを考えてみたところ、自分たちが褒められていないからだ、と気づきました」と少し自嘲気味に続けます。この言葉に、周囲のマネジャーは一様に「そうそう」と同意していました。

ものすごくよくできたことに対して「褒める」?

 40代以上の人たちの多くは若いころ、褒められるよりも叱られることのほうが多かったではないでしょうか。そういう人たちが管理職やベテランと呼ばれる年代になると、褒められる機会はさらに少なくなります。

 そもそも自分が褒められた経験がほとんどないのに、いきなり「若手を褒めろ」と言われても、ハードルが高いのは当然です。心理的抵抗もあるでしょうが、何より「褒め言葉のストック」を持ち合わせていないことが大きいようです。頭では「褒めることも大事だな」と理解できますが、冒頭のマネジャーのように、若手のどこをどう褒めたらよいか、わからなくなってしまうのです。

 こうした人たちは「褒める」という行為を特別なものだと捉えがちです。ものすごくよくできたことに対して、「すごいね」「えらいね」「あなたのこういうところがいいよ」といったせりふを繰り出すのが「褒める」ことだと思っているようです。

 しかし、若手を見ていても「ものすごくよくできた」と思える機会はめったにありません。むしろ「まだまだだなあ」と思うことのほうが多いようです。

 若手が締め切りよりもかなり早く仕上げて、予想していた以上によい出来の資料を作ってきたら、「すばらしい」「よくやったね」といった褒め言葉を繰り出せるでしょう。しかし、締め切り日ぴったりに、「このくらいのレベルならOK」と思う資料を出してきたら、「すばらしい」よりも「当たり前だよね」と思ってしまいます。