これまで「世界と互角に戦うには、新たな戦略が必須」「日本人PMに求められる、中国人SEとの本当の『あ・うん』の呼吸」「オフショア開発の『三重苦』」を直視せよ」「日本企業のオフショア戦略の過ち」というテーマで解説してきたが、5回目は最終章として「アジア補完体制作りの勧め」で締めくくりたい。

日本人の負の特性を補完する相手を

 世界のICT市場の動向は近年、米国、欧州、アジアと3極化しており、特にアジア地域の発展が大きい(図1、図2)。日本のSI企業は、欧米企業に比べ地理的なアドバンテージのあるアジア圏市場(特に中国やインド、東南アジア)で本当にリーダーシップを発揮することができるのだろうか。こう危惧するのは筆者だけではないだろう。

図1●世界のICT市場(売上高推移) 出典:世界情報サービス産業機構
図1●世界のICT市場(売上高推移) 出典:世界情報サービス産業機構
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図2●世界のICT市場(国・地域別) 出典:世界情報サービス産業機構
図2●世界のICT市場(国・地域別) 出典:世界情報サービス産業機構
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 「グローバル化」と言っても、日本企業にとって、実態は安い労働力の確保や市場開拓の視点に留まっているに過ぎない。現地の特性を理解し、育成し、制度を作り、責任や権限の委譲までできているのだろうか。4回目の「日本企業のオフショア戦略の過ち」で解説した現地オフショア拠点の構造改革も、こうした観点での仕組み作りが必要だ。

 しかも一般的に日本人の特性として「決断力が乏しく」、それが「消去法(マイナス)の思考」になり、リスクや問題ばかりを気にするという困った習性があると思われる。それに比べて、外国人(欧米だけでなく、中国や台湾、韓国、インドも含めて)の特性は、「行動力があり」、「加算(プラス)の思考」となるため、メリットを得る可能性があればチャレンジする傾向がある。日本企業が外国人の特性を備える組織と組めば良いパートナーになるが、競争相手になれば厄介だ。

グローバル・デリバリー・モデルの構築を急げ

 アジア圏市場では、様々な連携パターンが考えられる。特に中国市場では、地理的、歴史的、文化的背景から台湾や香港企業との連携が多くの実績がある。特に製造業や流通業では、既に成功事例も多く、基盤技術や生産管理、品質管理(ものづくり)のノウハウなどを日本企業が提供し、マーケティグや販売を台湾企業が担当するというケースが典型的だろう。

 SI業界の場合でも、1回目に説明したチェーン店販売システムの例のように、基本的なノウハウは日本が提供し、台湾企業が市場開拓している場合が多い。2回目に紹介した「あ・うんの呼吸」の相手も、台湾企業の中国子会社で、やはり中国市場で活発な活動をしている。中国市場では、香港企業も積極的にSIビジネスを展開しており、台湾や香港企業と連携している日本のSI企業は少なくない。

 日本のSI企業にとって中国市場で気がかりなのは、インド企業の存在にあると筆者は考えている。中国に進出する欧米系企業を狙い、インド企業は相手先の本社に直接にアプローチするからだ。インド企業が中国企業と手を組んで中国国内で開発すれば、日本のSI企業が入り込む余地がないといえよう。