日本企業のオフショア開発戦略が見えなくなっている。日本のオフショア開発は、1990年代に大手SI企業がメインフレームからオープンシステムに舵を切った際に盛んになった。SE人材不足の解消とコストダウンを目的に、優秀なオープン系の技術を身につけた中国人技術者やインド人技術者を確保。オフショア開発によって、日本のダウンサイジングは一挙に加速したといってよい。 同時期に「Y2K(西暦2000年)問題」への対応もあり、欧米の趨勢に習いインドでのオフショア開発も活性化した。

 当初はオフショア開発の目的も単純で、発注側がリカバリーしながら進めても、十分にコスト的なメリットを活かせた。しかし今は状況が違う。新しい時代のなかで新しいオフショアの姿を追求しなくてはならない。

 これまでのオフショア開発は、戦略が不十分なまま、惰性で実施していることが大きな課題ではないだろうか。この課題を乗り越えるためにも、オフショア開発の構造改革が必要だ。

戦略が開発現場まで浸透しているか

 オフショア開発のスタイルは、大きく3つに分類できるだろう。(1)これまでの流れを引き継いだもの、(2)日本国内の分散開発の延長線上で行われている、(3)過去の反省を踏まえ、将来のスタイルを見込んで全く新しいスタイルでオフショア戦略を練って開発している、などである。

 筆者が見るところ、ほとんどのオフショア戦略が現場レベルまで浸透せず、(1)または(2)で行われているようだ。時代の流れであるオフショア先のコスト上昇に対して何の手も打てていない。このオフショア開発のスタイルでは今後、行き詰まることが予想される。(3)は理想的なスタイルであるが、全社的な取り組みになっているかどうか、発注側とオフショア側にその仕組みが確立されているか、などで評価が分かれる。

 では、どうするべきか。戦略的には、早急に以下のことを実現する必要がある。(a)自社100%子会社のオフショア会社の戦略的位置づけを確立する、(b)自社オフショア拠点の徹底したスリム化を図り、この拠点を軸にしたオフショアパートナー戦略を確立する、(c)営業戦略とGDC(グローバル・デリバリー・センター)との戦略マッピングを確立して遂行する、などである。GDCとは、オフショアやニアショア、オンショアなど含めてグローバルな視点で最適な開発拠点を選択し、サービスを提供できるようにすることだ。

 こうした(a)~(c)のオフショア開発の仕組み造りと同時に、適所適材の人材配置とキャリアパスの形成、さらには育てた人材が辞めない仕組みを作ることも重要である。このため筆者は、図1の課題と図2のヒントを参考にした対策の推進も、改革を早める要素の一つだと考える。

図1●過去の事例からみる人材評価の課題
図1●過去の事例からみる人材評価の課題
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図2●アジアの人材評価制度へのヒント(現地の観点)
図2●アジアの人材評価制度へのヒント(現地の観点)
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