オフショア開発は単なるコスト削減や人材確保だけではなく、現地市場の開拓につなげる努力がますます求められている。このため日本人のプロジェクトマネジャー(PM)には、現地で開発を指揮するスキルが今まで以上に望まれるといってよい。

図1●オフショア開発の潜在的問題
図1●オフショア開発の潜在的問題
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 しかし、それが難しい。日本と同様な感覚でプロジェクトを進めようとすると、必ず壁にぶつかるからだ。筆者は「オフショア開発の潜在的な問題」として日本人と現地人双方の「あ・うん」の呼吸を失敗要因としてあげている(図1)。

 発注側の上流設計者は「あ・うん」の呼吸に頼らず、オフショア側に確実に仕様を伝える努力が必要である。相互文化や認識の違いによる問題があることを十分に理解したうえで、仕様を伝えなくてはならない。

 そして最も重要なのは、発注側もオフショア側もユーザー企業の存在を意識して取り組むことだろう。オフショア側が自国のユーザー企業に対応した経験を持っていたりユーザー企業と近い関係があれば強いし、発注者側との意識のギャップは少なくなるはずだ。

 最初から「あ・うん」の呼吸に頼るべきではない。しかしオフショア側との認識の違いを認め合い、コミュニケーションを深めた上で、最後はやはり「あ・うん」の呼吸がプロジェクトを成功に導く。「あ・うん」で意思疎通できるまでの努力が、日本人PMに求められるのだ。

コミュニケーションを深める努力を

 実例を示そう。ある日本企業が、韓国と中国のオフショア開発で失敗したため、もうオフショア開発をあきらめていたことがあった。このとき、筆者の提案で3度目のオフショア開発に挑んでもらうことになった。

 まずは、日本側の社員のモチベーションや意識改革からスタートし、現地パートナー選択のため中国に渡った。北京や西安、武漢のオフショア企業を30社以上も訪問し、トップや開発部長、PMクラスと話して、最後に武漢の1社に決定した。この企業は日本向けのシステム開発の経験が全くなかったが、中国の金融系顧客を相手に台湾人SEと中国人SEが一緒にシステム開発を手掛けていた。ユーザー企業の性質を理解しており、最終検収時に発生しそうなトラブルも理解していた。