1990年代から始まった日本のオフショア開発は、大きな転換期を迎えている。グローバル競争が激化する中、世界の強豪と互角に戦うための戦術として、オフショア拠点の戦力化がますます重要なテーマになっているものの、中国やインドでは人件費が増加しているほか、最近の急激な円安なども加わって、今までのやり方を見直さざるを得なくなっているからだ。

 実際にオフショア開発の現場で何が起こっているのか、今後はどうすべきかなど、筆者の体験談を交えながら解説していきたい。

オフショア開発の本来の目的とは

 なぜ、オフショア開発が揺れ始めたのか。それは本来の目的を見失っているのではないか、と筆者は考えている。本来のオフショア開発は単なるコストダウンだけでなく、人材確保や現地の市場開拓まで視野に入れているはずだからだ。

 実際の例を示そう。90年代の中ごろ、筆者がオフショア開発の場面に初めて立ち会ったのは、日本企業の台湾拠点で勤務していた時代だった。このとき、中国に進出している台湾企業から中台双方で使用するチェーン店販売システムを受注した。

 上流設計では、当初から台湾市場と中国市場を意識していた。要件設計では、台湾店舗向けと中国店舗向けのニーズを考慮。まずは台湾店舗にシステムを導入し、安定稼働を確認してから中国店舗に同じシステムを導入する計画を立てた。要件定義は台湾で行ったが、基本設計からシステムテストまでを中国のオフショア側が一貫して担当するようにした。

 開発では台湾人SEが中心となり、中国人SEと共に行った。システム導入時は、本番間際まで不具合や課題解決でバタバタしたが、無事本番を迎えることができた。中国のオフショア側による展開から保守までもスムーズに進んだ。成功要因は、言葉の壁が無かったこと、豊富なソリューション開発の経験を持ち、双方の市場を理解している顧客と技術者がいたことがあげられる。

 上記の例のように、本来のオフショア開発はコストダウンや人材確保だけではなかった。相手国の市場をしっかりと意識し、地元に根付いたソフト開発の技術を基にしてオフショア拠点として戦力化。相手国の市場を開拓し、SIビジネスを成功に導く。こうした戦略が重要であると筆者は考えている。