「近い将来、エンタープライズ系の技術者はWeb系の技術者に取って代わられてしまうんじゃないかな。Web系の技術者が業務システムを本気でやり出したら、今までのような企業情報システムを作っていた技術者なんて、あっという間に駆逐されてしまうよ」。少し前に、ある小売り企業のCIO(最高情報責任者)と話をした時、このCIOはそうつぶやいた。

 なかなかの暴言である。あまり時間が無かったので、発言の真意を詳しく聞くことはできなかったが、私もこの暴言に一枚かみたい。というか、まさにその可能性は大だと思う。

 私がそう思うのは、技術的な観点からではない。それは大した問題ではない。COBOLでプログラムを書いている人も、やる気になれば、Javaや関数型言語を習得することは十分可能。問題なのはビジネスやスピード感に対する感受性、もしくはマインドの違いだ。

 従来の情報システムを担ってきた技術者は、ウォーターフォール型の開発に慣れ親しんできた。要件定義にじっくり時間をかけるのが当たり前の世界だ。作ってきたのは主に会計などバックオフィス業務のためのシステム。ITベンダーの技術者はともかくユーザー企業の技術者なら、開発後は利用部門の要望・要求を受けての保守業務という長期間のルーチンワークが待っている。IT部門内に閉じこもりがちとなり、自社のビジネス現場とは次第に縁遠くなる。

 一方、Web系の技術者は四六時中、ビジネスに向き合っている。Webマーケティングしかり、EC(電子商取引)しかりである。売り上げを伸ばし利益を増やすために、ITとしてやれることは何かを常に考えているわけだ。スピード感もまるっきり違う。要件定義に半年もかけるなんてことはあり得ない。素早く作って、利用者や顧客の反応を見る。問題があればその日のうちに改善する。ヤフーの宮坂学社長の言葉を借用すれば、まさに“爆速”。そんな世界である。

 これまでは、Web系の技術者が従来の企業情報システムの領域に“進出”することは考えにくかった。彼らにはウォーターフォール型の大規模開発の経験はない。だから、事前に広範で厳密な要件の定義が必要なシステムは作れるわけがなかった。そもそも彼らは、会計システムといった“退屈な”バックオフィスのシステムの開発に携わる気もなかっただろう。

 ところが最近、状況が変わってきた。多くの企業で、IT投資の力点がバックオフィスのシステムから、ビジネスに直結するシステムに移りつつあるのだ。WebマーケティングやECのためのシステムは、ビジネス直結のシステムの最たるもの。ほかにもICカードやスマートフォン、クラウドなどを活用し、売り上げと利益を生むシステムが、これからのIT投資の主戦場となる。技術者にも当然、ビジネスを考える力と“爆速”が要求される。

 そんなわけで、Web系の技術者の価値がどんどん高まっている。今や彼らは、ネットを使った新規事業のビジネスモデルやプロセスを考え、そのインプリメンテーションも担っている。つまり、ビジネスロジックの設計やそのプログラミングも行っているわけだ。

 従って、Web系の技術者が従来の企業情報システムを担ってきた技術者を駆逐する日が来る可能性は大いにある。その日が来ないようにするには、従来のシステムの技術者が“爆速”でビジネス直結のシステムを担う人材に変わるしかないだろう。