「既存事業頼みでは収益の大幅な伸びは期待できない」。そんな行き詰まりを感じている企業では、現場の社員から新規事業のアイデアを募ることが多い。ただし、アイデアが集まっても、実際に立ち上げたり収益を上げたりするまでに、なかなか至らない。

 それはアイデアそのものは良くても、そのアイデアの適用領域や想定顧客を見誤っていたり、時代や商流の流れをつかみきれていなかったりしているからだ。データサイエンティストの出番はここにある。アイデアを実現させ収益に結び付ける突破口を、データ分析を通して示すのだ。

 では、データサイエンティストはどう分析したら、新規事業のアイデアを収益に結びつけるアドバイスや提案ができるだろうか。それを探るには、自らの新規事業アイデアを実現し、軌道に乗せているビジネスパーソンの視点や考え方が参考になる。

600万人が利用するネット事業の立ち上げ事例に学ぶ

 その1人が、会員制の総合福利厚生サイト「ベネフィット・ステーション」を運営する、ベネフィット・ワンの白石徳生社長だ。

ベネフィット・ワンの白石徳生社長
ベネフィット・ワンの白石徳生社長
(写真:村田 和聡)

 人材派遣大手のパソナで営業マンをしていた白石氏は1995年、社内の新規事業アイデアの募集に応じて、ベネフィット・ステーションの運営ビジネスを提案。当時はインターネットのビジネス活用が本格化し始めたばかりの時期だったが、そのアイデアが社内で認められ、事業をスタートさせた経験の持ち主だ。その社内ベンチャーは今や東京証券取引所に上場するまでになっている。

 主力事業は企業向けの福利厚生サービスだ。企業が会員契約を済ませると、その企業に所属する社員はホテルやレンタカー、レジャー施設など、福利厚生サービスの利用手続きを、ベネフィット・ステーションから行える。

 23万種類もの福利厚生サービスを社員が割安で利用できることから、会員企業数は年々増加し4000に達している。サイトを利用するユーザー数は600万人を超える。

「ネットで事業しよう」だけのアイデアを洞察力で具体化

 業界でも最大とされる福利厚生サービス事業の確立は、白石氏の洞察力と分析力によるところが大きい。人材派遣の営業担当者という立場から、多角的に分析。そこからアイデアを具体的に膨らませていった。

 白石氏の市場分析は、「市場が広がるネットで事業をしたい」との思いに始まる。

 「ガリバーがいないマーケットに乗り出す」ことを念頭に、既存のネットビジネスの動向を見てみると、サイトに掲載する広告で収益を確保する事業モデルが多かった。そこで、よりプレーヤーが少ないEC(電子商取引)を事業モデルに採用することにした。