5回にわたる中国連載は、今回が最終回。北京におけるスタートアップ・エコシステムの急拡大を指して「北京は既にシリコンバレーの域に達している」として始まった連載ですが、最後はブランク氏による中国政府指導部への見解で締めくくられています。(ITpro)

 前回の投稿は、北京のアントレプレナーのエコシステムに関するものでした。今回は、中国に関する私の最後の考察です。

土地の取り合い

 過去10年間に中国は、検索とメディア、そしてソーシャル・ネットワーク・ソフトウエア市場から国外企業を締め出しました。Google、Facebook、Twitter、YouTube、Dropboxをはじめ、国外の3万件のWebサイトに、中国からアクセスできなくなったのです。その結果、中国のソフトウエア分野のスタートアップ企業は、既存の米国のビジネスモデルを「中国流にコピーする」という開かれた市場を確保しました。

 もちろん、「コピーする」というのは、強い言葉です。「適応させ」「採用し」「拡張する」が、おそらく、より適切な表現でしょう。しかしこの10年間、中国でのソフトウエア分野で「イノベーション(技術革新)」が意味したことは、シリコンバレーで意味することとは異なっていました。

 以下に示す、レゾナンスが考案した中国のソーシャルメディア業界の展望図は、中国市場におけるプレイヤーを巧みに説明しています(内側の円には、対応する中国国外の企業を表現しています)。

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 問題は、VCとエンジェルの資金があまりにも豊富なために、グルーポンの“クローン企業”10社に積極的に投資をしたことでした。過去数年は、既存のエコシステムに基づく革新の要求はありません。

中国の新しいルール

 中国のエコシステムが他国に比べて全く異なると同じように、消費者層と顧客の期待も全く異なります。中国のインターネット・ユーザーの70%は30才以下です。彼らは、電子メールではなく、「QQ」と呼ばれるインスタント・メッセージを使って育ちました。彼らは以前Webを使っていましたが、今では商取引、コミュニケーション、ゲームなどの全てに、モバイルWebを使い出しました。多分彼らは、モバイル以外の電話を見たこともないでしょう。2012年末までに、iOSユーザーは8500万人、Androidユーザーは1億6000万人に達しました。iOSとAndroidユーザーを合算すると、毎月3300万人ずつ増加しています。

 中国のデジタル・デバイド、すなわち中国東部と中西部、都市と地方農村の格差を理解することは、とても興味深いものでした。北京のインターネットの普及率は70%以上ですが、雲南省や河西省、貴州省、その他の省では25%以下です。中国では5億6400万人がWebにアクセスしており、そのうち4億2000万人がモバイルWebにアクセスできますが、インターネット・ユーザーの74%は、平均月収は500米ドル(5万円)以下の学生、労働者、失業者です。

 中国のユーザーは、簡素かつ洗練された米国風のWebサイトではなく、複雑で煩雑で盛りだくさんのWebサイトを好んでいます。しかし、中国消費者の「デザイン嗜好」は悪趣味だと考えられるようになってきました。グローバル市場向けにデザインされたテンセントの「WeChat」は中国でとても人気があるアプリで、良いユーザー・インタフェース(UI)とユーザー体験(UX)が、どのような外観と使い勝手を持つべきかという基準を、初めて大きく押し上げました。WeChatは、中国のUIとUXを変革するかもしれません。

 中国のオンライン取引で注意すべき点の一つは、「Taobao」にみられるように中国人は実体のあるものを購入する一方、音楽やソフトウエアにお金を支払うのを嫌い、ゲーム・プレイのモデルは無料になりつつあり、プレイ中にアクセサリーや権利を購入する方向に進んでいることです。興味深いことに、主要媒体の厳格な検閲の当然の帰結として、ブログを読んだり書いたりすることは、米国よりも盛んです。

 私の推測では、「中国流コピー」の風潮は、この2~3年でなくなり、分別のある投資家による「スマートマネー」が、WeChatのような“中国の革新”を推進し始めるでしょう。