組織は大きくなるにつれて「普通の人」の割合が増えていきます。つまり、良くも悪くも人間が一般的に持っている性格や性質に組織の意思決定が左右されていきます。人間は基本的には保守的で変化を嫌う生き物ですから、勢い組織全体としても変化、あるいはそれに伴うリスクを嫌う方向に進みます。これも後戻りができない不可逆過程といえます。

 これが「前例主義」や「他社事例至上主義」となって、新しいことに挑戦しようとする少数派のイノベーターを大きな組織の中で生きづらくしていきます。

結局安心材料は「前例があるか?」

 組織は「成長」に従って常識的な人の割合が増えていくのはこれまで連載で述べてきた通りですが、そうなると集団としての心理もそれに強い影響を受けていきます。大多数の人が持っている心理的な性質というのは、

  • 変化を嫌う
  • リスクを嫌う(たとえそれがハイリターンが期待されるものであっても、同じ期待値であればローリスクを志向する)
  • 「分かりにくい(見えにくい)もの」より「分かりやすい(見えやすい)もの」に流れる

といったことで、このような性質が集団としての様々な意思決定にも現れてきます。従って、複数の選択肢が与えられれば「いままでと同じで」「分かりやすく」「リスクの少ない」選択肢に流れていくのは自然といえます。

 さらに、日本人特有の「横並び意識」がこれに拍車をかけますから、企画の意思決定の場でも話題になるのは「他社がどうしているか?」ということです。

 もちろん、意思決定で競合の状況を考慮するのは重要ですから、これそのものは全く悪いことではありませんが、問題は前例と同じく「他社ではもうやっている」といえば、すんなり意思決定が通りやすい半面、「業界初」となると途端にその企画は通りにくくなります。

 さらに、減点主義の会社では「点を取られない」ことが大事ですから、失敗による責任を回避することが至上命題と考えている組織では、もはや新しい選択肢が残る可能性は「奇跡」といってもよい確率になるでしょう。