「ビッグデータ」――皆さんなら聞いたことのない方はいないであろう。恐らく、このコラムを読んでいる方も、「ビッグデータ」というキーワードに誘われたのがきっかけではないだろうか。

 頻繁に見聞きする「ビッグデータ」という言葉だが、では「ビッグデータについて説明してください」と問われたら、明快に説明できるだろうか?はたまた、一部のビッグデータ成功企業を除いて、本当にビッグデータを活用している企業はあるのだろうか?

「どんなシステムを買えばよいですか」

 筆者にも、最近ビッグデータに関する問い合わせがよく来る。多いのが、「医療でのビッグデータの活用方法を教えてください」「当院でもビッグデータを活用したいのですが、どんなシステムを買えばよいですか」といった内容である。

 確かに、ビッグデータ関連のソリューションを提供している企業のWeb サイトを眺めていると、「医療ビッグデータを活用することで、オーダーメイド医療が可能になります」とか、「ビッグデータを活用して医療費削減が期待できます」なる文言が舞っている。

 しかし、まず医療のビッグデータとは一体何のことを指しているのか不明だし、オーダーメイド医療とは具体的にどの疾患をどのように治療するのかもよく分からない。医療費削減もしかりである。この違和感、どこから来るのだろうか。今回は、この"猫も杓子もビッグデータ現象"について診察してみたい。

 ビッグデータ活用の成功事例でよく取り上げられるのは、Google、Amazonといった企業である。これらは、「Google⇒ビッグデータ活用⇒広告事業の成功」「Amazon⇒ビッグデータ活用⇒ネット通販の成功」という単純な論法で捉えられている。

 同じ式を適用すると、「わが社⇒ビッグデータ活用⇒ビジネスの成功」や「医療⇒ビッグデータ活用⇒オーダーメイド医療の実現・医療費の削減」などという議論も成立しそうに感じてしまう。

 ビッグデータ活用の成功企業で共通している要素は、コモディティハードウエアとオープンソース系ソフトウエアの活用だ。読者の皆さんなら、コモディティハードウエアの調達やオープンソース系ソフトウエアは難なく入手できるはず。そうすると、GoogleやAmazonができるビッグデータ活用を、我々ができないのはおかしい、という論理も成立してしまうではないか。

 「そんなむちゃくちゃな…」という声が聞こえてきそうだが、GoogleだってAmazonだって20年前は存在していなかったのである。彼らにできて、どうして我々にできないのだろうか。1ミリでも近づくにはどうしたらよいのだろうか。

ビッグデータ活用は"ビッグデータ作り"から始まる

 次なるキーワードは、「recommendation(推奨・推薦)」である。ビッグデータを活用して成功している企業は、顧客が欲しいと思われるものをよいタイミングで薦めてくれると言われる。例えば、「Amazon⇒ビッグデータ活用⇒recommendationの仕組み⇒ネット通販の成功」となりそうである。

 このように、ビッグデータ活用で成功するには、単に一つ二つの「⇒」が存在するのではなく、たくさんの「⇒」がある。一つでも多くの「⇒」を解き明かし、自分のものとすることに、ビッグデータ活用のカギがあるのではないだろうか。

 ここからは、ビッグデータの活用について、データ、テクノロジー、サイエンスの三つの側面から考察して行きたい。

 データのパートでは、医療データを例にしながら、ビッグデータはどこにあるのか、そしてどうしたら手に入れられるかを議論する。テクノロジーでは、筆者が注目するテクノロジーについて医療データを実際に解析しながら解説する。サイエンスでは、なぜビッグデータではサイエンスが重要となるのか、サイエンスをどう適用するのかについて、様々な図表を使って説明したい。