米フォレスターリサーチの公式ホームページ。トップページで来訪者の職種などを聞く
米フォレスターリサーチの公式ホームページ。トップページで来訪者の職種などを聞く
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トップページで選んだ職種に応じて、最適化したコンテンツを提供
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 前回は、企業の公式ホームページにおいて、顧客属性や行動履歴に応じて異なるコンテンツを表示する、パーソナライゼーションという新しい可能性への注目を説明してきた。

 今回はその公式ホームページにおけるパーソナライゼーションの具体的な事例を紹介していこう。

個人情報を取得せずにパーソナライゼーションを実現

 まず、米国の調査会社フォレスターリサーチ社の例を見てみよう。このサイトでは、来訪者の所属部門や役割によってコンテンツを出し分けている。

 フォレスターリサーチ社は企業向けにテクノロジーやマーケティングの調査を行う企業だ。ホームページでは、無料公開している調査レポートやブログ、イベントの案内など無数のコンテンツを提供しており、来訪者は企業のCIOやCMOなどの経営層から現場の担当者まで様々な役職にわたる。また、情報システム部門やマーケティング、営業部門など所属する部門も様々だ。

 同社のパーソナライゼーションは実に単純な手法を使っている。

 初めて来訪したユーザーがトップページで目にするのは、ナビゲーションや企業ブランドをイメージさせる画像ではない。代わりに大きく表示されるのは、部門と役職の選択肢だ。そこで来訪者がまず行うのは、部門と役職のリストから自分に該当するものを選択することである。すると来訪者には選んだ役職や部門にコンテンツが最適化(パーソナライズ)された新たなトップページが表示される。

 例えば来訪者がCIOを選択すれば、CIOに特化したコンテンツを中心にページが構成される。マーケティングの担当者を選べば、マーケティングの現場担当者向けのコンテンツが集約されたページになる、といった具合だ。

 選択した役職や部門は、来訪者が意図的に変えない限り(クッキーを利用して)保存され、次回来訪時には自動的に最適なコンテンツ中心のページが表示されるようになっている。

 これは非常に単純なパーソナライゼーションの仕組みだ。だが、ユーザー登録などのハードルの高いプロセスを経ずに実現でき、再来訪時にもログインさせることなく関心の高いコンテンツを自動的に表示できる。パーソナライゼーションへの取り組みの第一歩としての参考となるだろう。

ウェルカムプログラムで顧客維持率を劇的に向上

 次の事例は、米国ソルトレイクシティに本社を置く地方金融機関のZions Bank。離反率の高い新規口座開設者向けにパーソナライゼーションを活用し、成果を生んでいる事例として注目に値する。

 同社が抱えていた課題は新規口座開設者の離反率。口座は維持し続けるものの、利用はしなくなってしまう顧客の割合を下げることだった。

 一般的に口座開設から最初の1年間の顧客離反率は、長く利用している既存顧客と比較して非常に高い。同社においても例外ではなく、開設後1年以内の顧客離反率は20%以上と、既存顧客の2倍以上になっていた。

 そこで同社では、新たに口座を開設した新規顧客に対して、開設時のアンケート結果や顧客属性、ホームページの閲覧状況、取引履歴などに応じてホームページのパーソナライゼーションを実施し、顧客離反を下げようと試みている。

 具体的にはこのようなプロセスとなる。顧客向けのダイレクトメールやEメールには、顧客毎にパーソナライズされたページへのURL(パーソナライズドURL:PURL)を設けており、そのホームページに訪れると顧客の関心やアクセス履歴、購入履歴などに応じてお勧め商品などのコンテンツが動的に表示する。

 例えば、今後住宅ローンのニーズが顕在化する可能性が高い30代以下の顧客向けには、定期預金や住宅ローンなどの商品を中心としたコンテンツを表示し、50代以上で資産運用に関心があると表明している顧客には、退職金運用に関するコンテンツを中心としたページを表示している。

 顧客全員に同じページを見せ、自ら商品を探してもらうのではなく、顧客のライフステージや関心に応じて、最初から最適な商品のお勧めを行うことで、銀行への関心を高く持ち続けてもらおうとの試みだ。

 結果として、口座開設者の離反率が5%減少し、口座への平均貯蓄額も2倍以上になるという結果を生み出した。ROIにして600%以上とも評されるこの取り組みは、米国National Center for Database MarketingからGold Award for Marketing Strategies も受賞している。

 このような企業サイトのパーソナライゼーションへの実現にはどのような課題が存在しているのだろうか。次回は、実現へのハードルを検討してみたい。

田島 学(たじま まなぶ)
アンダーワークス代表取締役社長
田島 学(たじま まなぶ)



早稲田大学政治経済学部卒。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て2006年4月にデジタルマーケティングのコンサルティング会社アンダーワークスを設立。