写真●桑原里恵氏・情報システムコーディネーター
写真●桑原里恵氏・情報システムコーディネーター
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 この6月下旬、コンシューマ向けクラウドサービスの“シャワー”を浴びる機会があった。シャワーとは何かというと、40件近いクラウドサービスのWebページや紹介ビデオを次々に見ることである。

 シャワーを浴びるとき、あまり頭を働かさないように、「これは何だ」「どういう仕掛けか」とか、あれこれ考える間もなく、クラウドサービスを疑似体験していく。メディアの仕事をしているにもかかわらず、知っていたサービスは1件だけ、それ以外はすべて初見であった。

 「自分の担当範囲はエンタープライズシステムだから知らなくてもいい」と心の中で居直っていたところ、シャワーセミナーの講師をしていた札幌スパークルの桑原里恵情報システムコーディネーターから厳しい言葉が出た。

 「エンタープライズシステムを手がけている人はコンシューマ向けサービスからぜひ学んでほしい。一人の社会人のリテラシーとして、こういうサービスを使ってみることも大事です」

 桑原氏は情報システムのグランドデザインづくりを手伝うコンサルタントで、30年ものキャリアを持つベテランである。ここ数年、「長年蓄積してきた知見を多くの方に共有してもらう」ことに力を入れ、ツイッターなどで注目すべき技術に言及したり、説明資料をWebで公開したり、メールマガジンを出したり、公開セミナーを開いたりしている。シャワーセミナーもその一環だ。

 一連の情報発信に接してまず驚かされるのは、桑原氏の知識の幅広さである。コンシューマ向けのサービスやデバイス、ERPパッケージソフト、ミドルウエア、サーバー、実際のシステム構築や運用事例、業界動向、何についても詳しい。決して誇張ではなく、桑原氏に何かを質問して答えをもらえなかったことはない。

 次に印象に残るのは、新しい何かを紹介する語り口がとても楽しげなことだ。シャワーセミナーでも2時間半にわたって語り続け、予定していたサービスをすべて紹介できずに終わってしまったものの、「こんなに面白いものがあります」と実に嬉しそうにしゃべっていた。

 コンシューマ向けサービスだから面白がっていたわけではなく、ERPの新製品でも、垂直統合アプライアンスでも、Excelのことでも、桑原氏は「ここが新しい」「ここの工夫はたいしたもの」と指摘し、面白くて仕方がないといった調子で語る。ソフトでもハードでも、コンピュータの利活用なら、なんでもわくわくするようだ。

 もっとも単に面白がっているわけではなく、数々のサービスに共通する本質や傾向をずばり指摘する。コンシューマ向けクラウドのシャワーセミナーでは「アイデアだけのサービスは少ない」「徹底した顧客視点から“こと”をつくっている」など10を超える注目点を挙げていた。

 コンシューマ向けサービスを論じても、エンタープライズシステムを論じても、桑原氏の視点は変わらない。初めて会った10数年前から今日まで、「事業と本当に一体になったITは、事業者が主体的に動き、全体像を描いてこそ実現できる」という持論を繰り返し述べている。