写真●イラストレーター兼ライターのきたみりゅうじ氏
写真●イラストレーター兼ライターのきたみりゅうじ氏
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 「マンガで何かを表現するなら、マンガの特性を生かさないと意味がない」

 イラストレーター兼ライターのきたみりゅうじ氏はこう話す。プログラマー出身という経歴を生かし、自身の経験を基にシステムエンジニア(SE)の悲哀を面白おかしく表現した「SEのフシギな生態 失敗談から学ぶ成功のための30ヶ条」(幻冬舎)などの作品が知られ、「SEの代弁者」といわれてきた。

 その一方、「図解でよくわかる ネットワークの重要用語解説」「マンガ式 IT塾 パケットのしくみ」(いずれも技術評論社)といった、マンガを使った入門者向けのIT技術解説書や参考書にも定評がある。

 実は記者も「マンガ式 IT塾 パケットのしくみ」以来の大ファンだ。マンガをうまく使ってパケットなどの動きを表現しており、直感的に理解できるわかりやすさがある。何より、技術の解説書なのにとても面白いのだ。

 数年前、日経NETWORK編集部に異動したときに同書に出会って感動した。告白すると、日経NETWORKの記事を書く際にもずいぶん参考にさせてもらった。

 きたみ氏は「動きを見せるツールとしてはマンガは動画より優れている」と話す。マンガなら読み手のペースで速く読んだり、ゆっくり読んだりできる。つまり、読み手が時間に縛られず、自分の好きな速さで動きを読み解ける。

 セリフは活字だから、素早く読んでも頭に入りやすい。動きを説明する絵のところは、時間をかけて動きを一つ一つ確認しながら読めば深い理解ができる。これに対し、10分の動画を見るにはおおむね10分かかる。自分の好きな速さで見ようとしても面倒だ。

 きたみ氏が「マンガ式 IT塾 パケットのしくみ」を描き始めたころ、世間には「マンガでわかる」と称する書籍にあふれていた。だがその大半はコマの中で登場人物が図を見せながら説明していた。

 きたみ氏は「それなら図に文章を組み合わせた普通の本でいい。わざわざマンガにする必要がない」と考えた。「動きを見せるのに有利なマンガの特性にこだわる」ことで、初心者にも理解しやすい表現にたどり着いた。

 技術者だった頃は、新しい技術を習得するのに悪戦苦闘したという。例えばプログラミング入門書の定番「プログラミング言語C」(共立出版)を読み通すのにも非常に苦労した。「自分が苦労した分、読者が読むのに苦労しない、理解しやすいような本にしたい」という思いが、わかりやすい入門書を執筆する原動力になっている。


齊藤貴之
日経NETWORK
 1996年日経バイトに配属され、ほぼ5年間、液晶ディスプレイとハードディスクの記事ばかりを書き続ける。その後、日経ベストPC、日経Linuxなどを経て2009年現部署に配属。主にセキュリティやネットワーク障害などを担当する。