写真●ジークスの渡辺浩代表取締役社長
写真●ジークスの渡辺浩代表取締役社長
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 ITproは3年前、ITpro EXPO 2010開催に合わせ、HTML5で制作した電子雑誌「ITpro eMagazie」を発行した。手前味噌かもしれないが、3年たった今読んでも見栄えや操作性がよく、CPUの性能が向上した最新のタブレットでは、発行当時よりもむしろ快適に読める。

 当時まだ実績の少なかったHTML5を使って、この電子雑誌の開発を手掛けてくれたのがジークスであり、同社の社長が渡辺浩氏だ。3年前から「これからはHTML5」と読み、HTML5の開発に取り組んでいた。

 3年前、HTML5とJavaScriptで記述したWebアプリは、ブラウザによって挙動が違ったり、実行する端末のCPU性能が低かったりと、実用には大きな壁がいくつもあったが、なんとか乗り越えることができた。

 渡辺氏は「ようやくHTML5が浸透してきた。HTML5で開発してくれという案件が増えてきた」と言う。スマホやタブレットが普及し、端末の処理性能が向上し、ブラウザやOSも進化したことで、HTML5とJavaScriptだけで実用に耐えるWebアプリが開発できるようになってきた。数年先を見据えてHTML5に力を入れた判断は正解だったわけだ。

 今、渡辺氏はさらに先を見据えている。

 「将来はGoogle Glassに代表されるようなウエアラブルデバイスが普及し、スマホを中心にマルチデバイス化が進むだろう」

 こう読んだジークスは、ウエアラブルコンピューティングの開発環境や、ウエアラブルに特化したユーザーインタフェースを開発し始めた。

 将来、複数のウエアラブルデバイスが普及しても中心にはスマホが存在する。その時「スマホはパーソナルサーバーとなるだろう」。

 つまり、スマホとウエアラブルデバイスは、サーバーとクライアントのような関係となる。クラウドのデータをスマホで処理してウエアラブルデバイスに送ったり、ウエアラブルデバイスが取得した情報をスマホに送って処理したりする。

 パーソナルサーバーとしてのスマホからみて、クライアントはウエアラブルデバイスだけではない。自動車が積んでいるITデバイスも候補の一つだ。

 「GPSや車載カメラ、走行距離など、自動車が取得する情報を手元のスマホに送って一元管理できるようになるかもしれない。マルチデバイス化が進むことで、スマホはその中心としてますます重要になってくる」

 ただし、渡辺氏は決して、未来ばかりを見ているわけではない。現在もすべてのアプリがHTML5だけで開発できるとは考えていない。「まずはHTML5で開発してみて、ダメだったらネイティブアプリにする」(渡辺氏)。

 そのためにジークスはスマホ向けのハイブリッドアプリ開発フレームワーク「ダイナミックアプリ」を提供している(関連記事:ジークス、HTML5でiOSとAndroidのアプリを開発できるクロスプラットフォームを提供)。

 ダイナミックアプリは、HTML5とJavaScriptで記述したコードから、iOSやAndroidを搭載したスマホ向けのネイティブアプリを生成する。コンテンツ自体をHTML5とJavaScriptでWebアプリとして記述し、ファイルアクセスやデバイス操作といった、端末に依存する機能をネイティブアプリとして記述できる。

 こうすればHTML5とJavaScriptで記述したWebアプリを様々なデバイス向けに利用できるし、端末ごとに用意するネイティブアプリを高速稼働できる。ハイブリッドアプリ開発とは、こうした“いいとこどり”の開発手法を指し、スマホアプリ開発の分野で注目されている。

 今回の取材中、スマホやタブレットを手に取りながら、渡辺氏の語り口は一貫して情熱的だった。スマホを中心とした未来に挑戦し続ける一方で、技術が万能ではないことも知り、実現可能で実用的な“落としどころ”を模索する。渡辺氏のそういう姿勢が、夢を現実に変えていくのだろう。


早坂利之
ITpro
 日経オープンシステム、日経ソフトウエア、ITproで記者を務めた。ITproはスタート時からサイトの構築、編成を担当し、ほかにITpro Active、Tech-On!、ECO Japanなどのサイトも構築した。
■変更履歴
渡辺氏のお名前を本文中で誤って表記していました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2013/6/28 10:20]