写真●元湯陣屋の宮崎富夫社
写真●元湯陣屋の宮崎富夫社長
[画像のクリックで拡大表示]

 創業95年の温泉旅館「元湯陣屋」の宮崎富夫社長はCRM(顧客関係管理)ソフトの自社開発にこだわる。東京から電車で1時間ほどの距離にある神奈川県の鶴巻温泉にある陣屋は、従業員にスマートフォンやタブレットを配布し、CRMソフトに蓄積した顧客情報や、組み込んだSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用して顧客満足度の向上を目指している。

 自社開発したCRMソフトの利用は2010年から始めた。市場には「CRMソフト」の名称を持つ製品は数え切れない位ある。陣屋の従業員は約80人、客室数は20。決して大規模な旅館はなく、情報システム部門もない。では、なぜ自社開発にこだわるのか。

 この質問に対し、宮崎社長は「ソフトウエアの開発を社外に依頼すると、その時点で改善が止まる。常に現場を見ていて、改善点があったらすぐにソフトウエアに反映できる環境が一番だ」と言い切る。

 陣屋はCRMを開発し、改善するためにエンジニアを自社で採用している。エンジニアは調理場の板前と一緒に寝泊りしている。経営者である宮崎社長、板前や接客係など現場の従業員、そしてエンジニアが議論しながら開発することで、「顧客満足度を高めるソフトが開発できる」というのが宮崎社長の持論だ。

 宮崎社長は2012年4月にソフト開発会社「陣屋コネクト」を設立し、陣屋がつくってきたCRMソフトの外販を始めた。ソフトの名称は社名と同じ「陣屋コネクト」だ。

 陣屋コネクトはセールスフォース・ドットコムのPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)上で稼働し、セールスフォース・ドットコムのアプリケーションストアAppExchangeで販売されている。

 陣屋コネクトの販売を始めたことで「陣屋自身のさらなるサービス向上や業務の効率化ができるようになった」と宮崎社長は話す。利用者である全国の旅館・ホテルから改善要望が寄せられ、陣屋コネクトの機能を改善していくと、陣屋の業務にも新しいやり方を取り入れられるようになるからだ。

 最近ではインドや中国などのオフショア開発サービスも利用している。オフショア先は宮崎社長が自ら見つけてきた。ソフトウエアを自社で開発し、それに対してフィードバックをもらうことで自ら改善していく。このビジネスモデルはあらゆる企業に参考になりそうだ。


島田優子
日経コンピュータ
 基幹系システムのあり方について10年以上、取材を続ける。現在はIFRS(国際会計基準)や消費税改定の影響を追う。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)といった消費者向けITや、デジタルネイティブと呼ばれる新世代社員が、企業情報システムに与えるインパクトについても取材中。