写真1●杉本誠司氏・ニワンゴ代表取締役社長
写真1●杉本誠司氏・ニワンゴ代表取締役社長
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 「自民党は前代未聞のアプリを4本公開します」「民主党はWebサイト『VOICE』で一般参加者が政治家と議論できる場を作りました」――。

 2013年6月4日、夏の参議院選挙の告示を前に、動画サイト「ニコニコ動画」において、「ネット選挙ガイド2013」という番組が生中継された。10政党から代表議員が1人ずつ登場し、選挙期間中の各党におけるネット活用法を説明する番組だ。これを仕掛けたのが、ニコニコ動画を運営するニワンゴの代表取締役社長の杉本誠司氏だ。

 ニコニコ動画の登録会員数はざっと3500万人、月額525円の有料会員は200万人。ニコニコ動画は「サブカルチャーに興味がある若者たちが動画を投稿しあい、互いにコメントを書き込む遊びの場」と認識している人が多いかもしれない。そういう側面があるのは事実だが、ニコニコ動画で放送されている番組の内容はもっと幅広い。

 アイドルやアニメといったエンタテインメント系だけではなく、中学生向けの授業、野球、将棋の名人戦も中継される。最近は、国会中継や政治家の会見、政党のチャンネルといった政治系の番組も人気コンテンツだ。

写真2●ニコニコ動画で放送された「ネット選挙ガイド2013」
写真2●ニコニコ動画で放送された「ネット選挙ガイド2013」
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 ニコニコ動画で政治家の会見を生放送し始めたのは、2007年にまでさかのぼる。当初、書き込まれるコメントは「すげー!」「本当に政治家が出てる」といった稚拙なものがほとんどだったという。しかし次第に、政策に対する意見や提案などが書き込まれるようになった。

 一方、ニコニコ動画での放送に積極的な政治家が出てきている。彼らは「既存のマスメディアとは異なり、自らの発言が編集されないため、思いが直接有権者に伝わっている」と手ごたえを感じている。

 杉本氏は「ニコニコ動画が、テレビ番組の党首討論と、街頭演説を組み合わせたような場になった」と捉えている。

 実際、2012年の衆議院選挙の際には、党首討論会を開催した。当時首相だった民主党の野田佳彦氏を含む10党の党首が一同に会したこの討論会を、なんと140万人のニコニコ動画ユーザーが視聴したという。

 夏の参院選に向けて、杉本氏は新たなコンテンツを企画している。党首たちが熱い議論をする場に、ニコニコ動画ユーザーの代弁者として、有識者やジャーナリストに登場してもらい、ともに選挙を盛り上げる番組を企画中だ。

 さらに「選挙の裏側も丸ごと見せたい」というのが杉本氏の考えだ。

 「候補者や支援者、選挙対策本部の苦労をリアルに見せたい。選挙を全方位から見てもらうことで、候補者とユーザーとの距離が近づくはず」

 参院選以降、杉本氏はニコニコ動画でどんな仕掛けを用意しているのか。

 「『おわコン(終わったコンテンツ)』と思われているものにも、従来からのファンがいる。そういったジャンルを新しい切り口で見せることで活性化につながる。日本全国の町で開催する移動式の文化祭『ニコニコ町会議』で町おこしの手助けをしたい」

 常に新しいものだけを追いかけるのではなく、以前からあるものに別の角度から光を当てる。杉本氏の手により、新たな注目コンテンツが生まれそうだ。


鷹野美紀
日経パソコン編集
 日経パソコンのほか、これまでに日経PC21、日経レストランに在籍。パソコンや周辺機器を使って、仕事やプライベートをより充実させるためのノウハウを提供したいと考える。
■変更履歴
記事公開当初、本文中で杉本氏のお名前を誤って記述していました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2013/06/27 14:50]