写真1●グーグルの及川卓也シニアエンジニアリングマネージャー
写真1●グーグルの及川卓也シニアエンジニアリングマネージャー
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 「Nothing ventured, nothing gained」(挑まなければ、得られない)

 グーグル日本法人でシニアエンジニアリングマネージャーを務める及川卓也氏は自身のブログにこうタイトルを付けた。もともとは英ヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソン氏による言葉で、若い頃に聞いた及川氏は今も座右の銘としている。

 この言葉の通り、同氏のキャリアは挑戦の連続だった。及川氏が今、挑んでいるのは「Webをより快適に、より安心して使ってもらえるようにすること」だ。

 担当するWebブラウザの「Google Chrome」は日本でも多くの人間が利用している。まずはChromeの改善を通じて、「Webをより快適に、より安心して使ってもらえるようにする」という目標の実現に突き進む。

 及川氏は「セキュリティを上げつつ、機能も実現しなくてはならない。しかしパフォーマンスを落とすわけにはいかない。このバランスをうまく取って開発を進めることがチャレンジだ」と言う。

 スピードの速いWebの世界では、日々進化するWebの最新技術を習得しつつ、自分からアイデアを提案していかなければ、いいものは作れない。及川氏は、Webコンポーネントの標準化にも取り組む。

 Web技術では難しいとされてきたコンポーネントの再利用の実現に向け、及川氏のチームが中心となってWorld Wide Web Consortium(W3C)に働きかけている。Chromeで実装が進みつつあり、ほかのブラウザーベンダーも徐々に採用しつつあるという。

オープンデータを信じ情報発信を続ける

 「Webをより快適に、より安心して使ってもらえるようにする」ために、及川氏はオープンデータの推進にも積極的だ。

 誰でもどこでもWebが使える世界は現実のものになりつつあるが、様々な場所で生まれるデータは必ずしも誰でもが使えるようにはなっていない。

 「例えば東日本大震災の時、電力需給や放射能に関するデータは、多くのコンピューティングデバイスからアクセスできる状態ではなかった。何が起こっているのかを知るため、当時は画像から数字を読み取るようなプログラムを書くハッカーもいたほどだ。人だけでなく、プログラムもデータを利用するという事実を、政府や自治体、企業、個人が理解するようになればと思う。自分の作ったデータが、その意思を継いで多くの人に再利用されるようになれば、データを出す側の考え方も世界も変わるだろう」

 オープンデータについて、及川氏はIT関連の講演会や勉強会、ブログなどでさまざまな情報を発信している。「インターネットで世界がつながったのだから、せっかくの知の共有を分断したくない」というのが同氏の考えだ。