写真1●これまで開発に携わったスマートフォンと携帯電話。黒住吉郎氏が両手に持つのは「Xperia A」と「Xperia UL」
写真1●これまで開発に携わったスマートフォンと携帯電話。黒住吉郎氏が両手に持つのは「Xperia A」と「Xperia UL」
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 通信分野の取材をしていると、スマートフォンの開発や販売に関する日本メーカーの苦境を案ずる話題になることが多い。

 こうしたなか、NTTドコモの夏モデルで“ツートップ”に選ばれたソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia A」が、発売後1カ月で64万台売れ、ドコモ製品の中で過去最高の販売ペースを記録した。同じツートップの「Galaxy S4」(韓国サムスン電子製)を上回る好スタートで、日本メーカーの意地を見せる格好になった。

 ソニーモバイルはKDDI向けのスマートフォンとしては「Xperia UL」を5月に発売し、BCNランキングでは、iPhone 5に次ぐKDDIの売れ筋製品になっている。

 スマートフォン市場を切り開いたiPhoneは携帯音楽プレーヤーのiPodに通信機能とカメラが付いて生まれた。日本メーカー各社もまた、温度差はあるものの、既存の有力製品の要素技術やブランド力をスマートフォンに結集しようとしている。そのためには各製品を統括する事業部間の連携が欠かせない。

 Xperiaシリーズの商品企画を当初から手掛ける黒住吉郎氏は「最近は全社でXperiaの製品力を高めようとする機運が高まり、徐々に結果につながりつつある」と語る。

 とはいえ、ソニーは2000年代には縦割り組織の弊害が指摘されていた。他部署の協力を取り付け、スマートフォンにつながる複合型の通信端末を製品化するために黒住氏が採った、ソニー社内ではタブーとされていた“反則技”を今回紹介したい。

 今後ますます市場が拡大するスマートフォンやタブレット、スマートテレビなど、複合型製品の開発に向けて、社内の結束を強めるためのヒントになれば幸いである。

組織の縦割りをイメージビデオで崩す

 話は、黒住氏が旧ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズに参画した2003年までさかのぼる。黒住氏は33歳だった。

 当時はまだiPhoneの姿は見えず、携帯電話の王者にはノキアが君臨していた。一方、ソニーグループ内では、携帯電話、携帯音楽プレーヤー、デジタルカメラを開発する組織が完全に分かれていた。黒住氏は次のように振り返る。

 「ウォークマンなどの既存ブランドを携帯電話のような別ジャンルの製品で使うことは、他人のふんどしで相撲を取るものと見られ、タブー中のタブーとされていた」

 そうした状況の中、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズのスウェーデン本社に渡った黒住氏は上司に「僕がやらなくてはいけないこと」を書いた1通のメールを送った。その中で次の4点を宣言したという。

  • 僕なら携帯音楽プレーヤーと携帯電話を融合させた「ウォークマン携帯」を出します
  • 僕ならデジカメと携帯電話を融合させた「サイバーショット携帯」を出します
  • 僕ならゲーム機と携帯電話を融合させた「プレイステーション携帯」を出します
  • 僕ならパソコンと携帯電話を融合させた「VAIO携帯」を出します