「うちには手書きでは絵が描けないスタッフが何人もいるんですけど、まったく絵が描けないのにアニメーションを作っているんですよ。そういう人でもCG(コンピュータグラフィックス)だとアニメが作れる。すごい不思議。それってすごいことですよね」
サンジゲン代表取締役の松浦裕暁氏は、3次元CG(3DCG)を使ったアニメーション制作の特徴を端的にこう表す。松浦氏自身も、さほど上手く絵は描けないという。絵が描けないトップが率いるアニメ制作会社。それがサンジゲンだ。
2012年10月に劇場公開された「009 RE:CYBORG」は、漫画家・石ノ森章太郎氏が描いた名作「サイボーグ009」の精神を引き継ぎながら、新たに作られた劇場アニメ作品である。この009 RE:CYBORGでは、劇場公開アニメとしてある画期的な試みがなされた。一部の背景などを除き、作品の全編を3DCGで描いたことである。それを、共同制作会社としてサンジゲンが主導した。
米ピクサー・アニメーション・スタジオなどが作るアニメ映画も、ほぼフル3DCGで作られている。3DCGでは、これまで日本のアニメでごく普通に使われていたセル画を人が書き起こすという手法(セルアニメ)では困難だった1秒当たり24コマの「フルアニメーション」による表現も容易に実現可能だ。
にもかかわらず009 RE:CYBORGでは、日本のアニメに昔から使われてきた「リミテッドアニメーション」(1秒当たり8~12コマ)を用いるなど、日本のアニメテイストを3DCGで描きだした。普通に考えると、1秒当たりのコマ数が多いフルアニメーションの方がリミテッドアニメーションよりも表現力は豊かなはず。なのに、なぜあえて3DCGでリミテッドアニメーションなのか。
その質問に対する答えを松浦氏は、「日本人には、ここ何十年かの間にリミテッドアニメーションが完全に刷り込まれているからです」と述べる。確かに、海外で作られたフルアニメーションのアニメは、日本のアニメ作品と比べて違和感が残る人も少なくないだろう。「日本のアニメはコマ数が少なくてもちゃんと動いているように見える。それに慣れた日本人には、コマ数が少ないほうが気持ちいいと感じるんです」(松浦氏)。
コマ数の問題だけでなく、絵の描き方も日本アニメ特有のものがある。サンジゲンでは、3DCGで制作した絵を日本のアニメらしく修正する技術も持っている。
例えば009 RE:CYBORGのあるシーン。「サイボーグ003」であるフランソワーズ・アルヌールを下から見上げる描写があり、3DCGで制作すると顔が下膨れに見える。現実世界でもそうなるので、本来それが“自然”なのだが、アニメの世界では“不自然”に感じられる。
そこで、このシーンでは、サイボーグ003のあごを削ったり顔をつぶしたりといった変形をわざと施した。こうした手法により、下から見上げるシーンでも、正面から見たときのような顔の形になり“アニメらしく”仕上がるのだという。