40代のベテランエンジニアAさんの話です。Xという技術について精通しているAさんは、プロジェクトで「彼抜きで考えられない」というほど重宝されているそうです。

 「自分には技術のスキルがあり、成果をきちんと挙げている。だから、それ以外のことはしない」というのがAさんのポリシー。たとえば、自分の知識やスキルを後輩に教えたり若手を育てたりすることについては「全く関心がないし、私の仕事ではない」と堂々と言ってしまうとのことです。

「昔の貯金」が徐々に通用しなくなる

 プロジェクトリーダーであるBさんは、「Aさんの技術力の高さは抜きんでているし、依頼した内容をきっちりこなしてくれる。安定感があって安心できる」と認める一方で、「そういうAさんだからこそ、後進の指導にも興味を持ってくれたらいいのに、残念だ」と話します。

 ベテランなのだから、職務記述書に明確に「若手育成」と記載されていなくても、後輩が相談に来たら答え、若手の様子を見ていて困っていたら手を差し伸べるといったことにも関心を示してほしい。いつまでも自分の興味範囲だけに閉じるのではなく、他者のためにも働いてほしい。

 Aさんに対してこんな思いを抱いているBさんは、「後輩の指導にも少しは関わってほしい」「若手にいろいろ伝承してほしい」と事あるごとに伝えているものの、Aさんの反応は芳しくありません。

 さらにマズイことに、Aさんの持つXに関する技術力に、少しずつ陰りが見え始めているというのです。これまでAさんは、いわゆる「昔の貯金」で生きてきました。今でも、その貯金で過ごすことはできています。

 ところがAさんは、周囲の環境変化に合わせて貯金を殖やす努力を怠ってきました。その結果、どうもAさんが持つ技術力は陳腐化しつつあるのではないか。若手からもそういう声が出るようになってきたとのことです。

 Aさんは20代、30代のころ、きっと他の人よりもうんと努力し、勉強したに違いありません。そうでなければ、誰もが一目置くような高い技術力を身に付けることなどできなかったはずです。

 とはいえ、人はいつまでも昔の貯金だけで生きていけるものではありません。40代になっても新しい技術やスキルを身に付けて、新しいことに挑戦していないと、いつしか「終わっている」状態に置かれてしまう危険は十分にあります。