電力をはじめとするエネルギー、水、道路・交通。これらの社会インフラに高度な仕組みを持たせ、安心・安全で、より便利なライフスタイルを実現する――。いま世界中で、こうした取り組みが進んでいる。いわゆる「スマートシティ」だ。世界を見渡すと、プロジェクトは600件に上る。
重電、鉄道、ITなど様々な分野の事業を持つ日立製作所は、このスマートシティのインフラを支える作り手であり、国内をはじめ、欧米、中国など世界各地においてもスマートシティプロジェクトを手がけている。
社会イノベーション・プロジェクト本部スマートシティプロジェクト本部の戸辺昭彦副本部長はこうした各種のプロジェクトを引っ張っている。
「社会インフラのプロジェクトに取り組むにあたっては、全体最適を考えなければならない。そうしてこそ未来を作ることができます」。
これが戸辺氏の持論である。交通機関やトラフィック制御の高度化、水処理、廃棄物処理、エネルギー管理システムの効率化・強化、CO2排出量の低減、医療や教育の高度化、さらに産業集積までを視野に入れて、スマートシティを考えていく。
実際、これから本格的に都市の開発を進めていくアジア諸国では、このように社会全体を考え、そこにある課題を統合的に解決するアプローチで取り組もうとしているケースが多い。
これまで、スマートシティプロジェクトの多くは、スマートグリッドに代表される電力システムの強化や、災害対策の観点からの取り組みだったが、ここへ来て、徐々に社会の課題をにらんだ統合案件が増えつつある。
「社会インフラの全体最適」とはどういうことだろうか。一つの取り組みは、エネルギー管理システム、次世代交通システム、水処理システムといったインフラを一元的に管理し、その管理データを連携させることだ。「そうすれば、社会全体の課題を見つけ、改善しやすくなる」。
どのシステムも基本は、社会の様々な場所に配置した各種のセンサー、カメラを使ってデータを集めること。こうしたデータ群を解析し、改善につなげるサイクルを確立できれば、状況に応じて自律的かつ柔軟に機能し、成長し続けるスマートシティを、スマートな社会を実現できるようになっていく。
個人のデータの取り扱いには細心の配慮が必要だが、センサーやカメラからの情報、あるいはスマートフォンを使っている人の行動履歴などを利用することができれば、それはまさにビッグデータの利活用になる。そこからまた新たな価値を生み出し、よりスマートな社会を築いていけるかもしれない。
スマートシティを作ることは、豊かな未来の創造につながる。日本の各都市や地域をよりスマートにできるはずだし、そのための技術は、アジアなどの新興国で役立ててもらえる。それが、インフラ関連の輸出にもつながれば、日本の産業が活気づく。スマートシティプロジェクトの牽引役は、日本の元気の牽引役とも言える。
日経BPクリーンテック研究所