写真●米Treasure Dataの太田一樹CTO
写真●米Treasure Dataの太田一樹CTO
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 「世界で数千万のユーザーに使ってもらえるサービスを作り出せるのがITの力」。

 こう話すのは、ビッグデータの処理基盤をクラウドとして提供する米Treasure Dataの太田一樹CTOだ。ユーザー企業は保有する大容量データをTreasure Dataのクラウド上に格納し、データ分析ができる。

 Treasure Dataは、太田氏をはじめとする日本人エンジニアが2011年にシリコンバレーで起業した会社である。2012年11月に日本法人を設立したが、すでにグローバルに約70社の顧客を持つという(関連記事:日本を代表するビッグデータ技術者集団が米国で起業、米トレジャーデータがDWHクラウド開始)。

 一人でも多くのユーザーに、自分たちのサービスを使ってもらいたい。太田氏の思いの原点は、中学時代にある。iモードの黎明期に太田氏がJava言語で書いたシューティングゲームが40万ダウンロードの大ヒットになったことだ。

 携帯電話向けのJavaプログラミングをきっかけに、「ブラックボックスが嫌な性分」も相まって、太田氏はコンピューティングの低レイヤーに興味を持った。電車の中で拾った雑誌に付録として付いていたLinuxを使ってみたことがきっかけになって、その改良にいそしむうちにC++を習得する。

 そこからLinux関連の世界にのめり込み、openSUSEなどが標準採用する、主要なデスクトップ環境の1つ「KDE」の開発に関わり、KDEのソースコード修正権を持つコミッターと呼ばれる開発者の1人にまでなる。

 「日本語が打てない、禁則処理がない、といった当時のKDEの問題を、ソースコードを読みながら知識を得て修正していった」と太田氏は振り返る。

「共通の課題を抱えるユーザーがいる」

 オープンソースソフトウエアの開発者として経験を積んだ太田氏は、東京大学在籍時、高速な全文検索エンジンを核に起業した学生ベンチャー、プリファードインフラストラクチャー(PFI)に参画する。CTOとしてプロダクトの開発を主導したが、2009年頃から、シリコンバレーで起業することを考え始める。

 そのきっかけは、シリコンバレーの圧倒的な成長スピードと、それを支える環境を身近に感じたことだ。PFIは2009年、Hadoopの商用パッケージを手がける米Clouderaの日本進出に関わった。ベンチャーキャピタルなら資金を獲得し、エンジニアを大量採用し、市場を一気に広めようとするClouderaのやり方を肌で知った。

 起業のアイデアはあった。Hadoopクラスターを簡単に使えるように、クラウドから提供してはどうかというものだ。太田氏は日本のHadoopユーザー会をつくり、2009年からHadoopカンファレンスを主催していた。その過程で「大容量データを解析したいだけなのに、Hadoopクラスターの運用に手間がかかりすぎる。これは日本に限らず、世界に共通する課題だ」との思いを強めていた。

 起業の可能性とHadoopの課題を考えていた太田氏の背中を押したのは、Treasure DataでCEOを務める芳川裕誠氏だ。芳川氏に起業を促された太田氏は、Treasure Dataソフトウエア・アーキテクトの古橋貞之氏とともに、シリコンバレーにTreasure Dataを設立する。様々なデータを構造化してリアルタイムに収集するソフトが世に無かったため、古橋氏と共同で「Fluentd」を開発。オープンソースソフトウエアとして公開した。