写真●聖亘トランスネットワーク物流システム課開発グループの小山亨氏
写真●聖亘トランスネットワーク物流システム課開発グループの小山亨氏
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 「それなら僕につくらせてください」と直訴、新たにプログラマーを採用して独自開発を始めた。4人で開発したそのシステムは、同業大手から「なぜ今までうちでこれを作らなかったのか」「ぜひうちのシステムに取り入れたい」という声が相次ぐ出来映えだった。

 この運航管理支援システム「Transporter/ST-Navi」は、神奈川県平塚市に本社機能を置く中小運送会社の「聖亘(せいこう)トランスネットワーク」が独自開発したもの。タブレット端末のGPS機能を通じて1分ごとにトラックの位置を取得し、配送の予定時間を刻々と表示する。

 このシステムを使って配車ルートを最適化することで、トラック走行距離を短縮し、排出する二酸化炭素ガスも削減できた。労務の省力化や燃料費削減など10%のコスト削減効果があったという。

 独自開発を会社に談判したのは、物流システム課開発グループの小山亨氏らだ。小山氏は大手IT関連会社で10年ほどSEをしていた経験を買われて、聖亘トランスネットワークに入り、開発を委託したシステム開発会社とやりとりを担っていた。同社は2010年2月から、専用カーナビ端末を利用する運行支援システムの開発に乗り出していた。

 ところが、システム開発会社に運送業界の用語や仕組みを説明してから、成果を得るまでに時間がかかる。そこで小山氏は冒頭の談判をした。聖亘トランスネットワークは自社で作ろうと決め、プログラマーの求人を出し、2012年1月から小山氏を含め4人体制で開発を開始。同年9月に都内で開かれた国際物流総合展で披露した。

厳密な配送時間を求められる荷物を運ぶ

 聖亘トランスネットワークは2003年に創業し、25台ほどのトラック車両を保有している。自動車部品やインキ・塗料、化学薬品関係など、厳密な配送時間を求める企業の運送を担う。それだけに創業時からGPS機能を活用して顧客に情報提供するなど、ITを積極利用してきた。

 山田裕社長自ら、「こんなものを作ってくれ」と依頼を出す。そのたびに、小山氏らは同社が培ってきた運送ノウハウをもとに最適解を探してきた。

 たとえば同社のシステムは、運送会社の配車担当者が培ってきた職人技を活かしながら効率化できる。配車担当者は「ベテランドライバーはこのくらいの荷物はすぐ運べる」「新人ドライバーに荷物をこんな多くの運ばせたら危ない」といった判断をしてきた。

 こうした職人技を効率良くサポートするというコンセプトのシステムに仕上げている。これに対し、従来の自動配車システムは多くは、運送の効率を上げるため、荷物のデータをもっぱら参照して積載率を上げることを狙っていたという。

 どういう順番で回ったら最短か、といったことを計算するために、機能が向上してきた「Google Maps API」を組み込んで活用している。ただし、到着や荷卸しなど作業時間を織り込んで、次の到着時間を示す機能は独自の工夫をした。

 さらに走行時間を算出する際にも、実際に都内などを走ったデータを取りながら補正値を与えて精度を上げた。もっとも手間がかかったのは、位置情報を1分間以内に送る仕組みで、これはネイティブアプリで作り上げたという。

 「このあたりは運送会社の我々でないとつくれなかったと思う」と小山氏は語る。

 開発を始めて3年ほど経ったが、運航管理支援システムの開発や改善はなお続いている。山田社長や顧客などから、さらに機能の追加を求められるからだ。しかも、中小企業ならではの割り切りとスピード感が求められる。「そういう開発ができるのが逆に強み」と小山氏は話す。

 オープンに使える最新技術を駆使して、大きく飛躍できるチャンスは中小企業にこそある。小山氏のような技術者はその可能性を体現している。


大豆生田崇志
日経情報ストラテジー
 日経ビジネスなどの記者を務めた。ITそのものより、それを使いこなす人やそのマネジメントに関心を持つ。