通販大手の千趣会の社長、田邉道夫氏は経営者としては異色の経歴の持ち主だ。若い頃に情報システムの設計、開発から運用まで、全てを一手に担当した。
「なぜだか分かりませんが、白羽の矢が立ちまして、私がゼロから何もかも全部やりました。1970年のことです。もう随分古い話ですね」
田邉氏はその後もシステムを担当し、コンピュータを大型メインフレームへ切り替える仕事もほぼ一人で手がけた。当時はプログラムも自ら書いたそうだ。
「さすがにもうプログラミングは無理ですが、経験があるので、今でもシステムのアーキテクチャなど概念的なことは分かりますよ」
大事なのは顧客DB、ハードではない
田邉氏が手塩にかけてきたと言える情報システムだが、2006年に千趣会は「システムを持たない」ことを決めた。日本IBMにアウトソーシングし、2012年には契約を更改、期間を2020年まで延長している。
「我々のような業態は繁閑の差が大きく、そのピークに合わせて機器などを用意するのは大変です。システムを担当した経験を踏まえても、自前ではもはや限界が来ていたのです」と田邉氏は淡々と語る。
「通販ではシステムの重要性は高いと思いますが、自前でなくてもよいのですか?」と重ねて聞いてみたところ、田邉氏の答えはシンプルだった。
「大事なのは顧客データベースです。管理している1500万人分の顧客情報が我々の財産です」
RFM分析により顧客を“発見”
「通販はサイエンスです」。田邉氏は続けてそう話す。
実は、田邉氏は約20年前に「RFM分析」の導入を主導している。RFM分析はリーセンシー(最新購買日)、フリークエンシー(購買頻度)、マネタリー(累計購買金額)の三つを指数化し、購買の可能性が高い顧客を見つけ出そうというものだ。
RFM分析に基づき、全顧客にポイントを付けて、ポイントの高い人に全てのカタログを送ったり、他のデータも掛け合わせて顧客がどんなジャンルに反応するか調べたりした。今ではネット通販にも応用している。
つまり、田邉氏にとってシステムは、科学的な手法で顧客を“発見”するための道具になる。道具は所有する必要はなく、使いこなせればよい。顧客データベースを財産に分析力に磨きをかけていくことこそが重要なのだ。
経営者としてビッグデータに着目
田邉氏が社長になったのは、2011年1月のことだ。就任後の2年間は減益に見舞われるなど、いささか不本意だった。2013年12月期こそ捲土重来を期し、「10年後の売り上げ倍増につなげたい」とする。
そのために、商品やサービスの提供価値を磨き、提案力を高め、コールセンターなどでの接客のクオリティーを高める。そして、ビッグデータ活用の可能性にも着目する。
「玉石混交の膨大なデータの中から宝探しをやらないといけませんからメリットはまだ明確ではありません」と語る田邉氏だが、ビッグデータ活用に向けた取り組みをスタートさせた。自らも専門家と議論することで、その可能性を探りたいという。
日経コンピュータ