写真●NTTドコモの栄藤稔執行役員研究開発推進部長
写真●NTTドコモの栄藤稔執行役員研究開発推進部長
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 「我々が取り組んでいることは差異化につながっているのか。“先行者不利益”となっているのではないか」

 日経コミュニケーションの2013年1月号の特集「NTTドコモ 不振の裏側」で、NTTドコモの栄藤稔・執行役員研究開発推進部長に取材したときのことである。NTTドコモの課題を尋ねると、冒頭の発言が返ってきた。LTEサービスがその好例という。

 LTEサービスと聞いて筆者はすぐ、次のようなことを思い浮かべた。

 NTTドコモは、2010年12月に他社に先駆けてLTEサービス「Xi(クロッシィ)」を開始した。KDDI(au)とソフトバンクモバイルがLTE(FDD方式)を始めたのが2012年9月だから、実に約1年9カ月のアドバンテージがあったわけだが、先行者利益を得たとは言い難い。

 iPhone 5の発売と同時にLTEを開始して認知度を一気に高めたKDDIとソフトバンクモバイルに対し、「Xi」ブランドをなかなか浸透できなかったNTTドコモは、顧客に「いつLTEを始めるのか」と尋ねられることすらあった。

 これだけならまだしも、「NTTドコモのLTEは速度が遅い」という指摘が目立つようになる。KDDIとソフトバンクモバイルはLTEのサービスを始めた直後で利用者が少なく、いわばスカスカの状態なので、速いのは当たり前だ。

 これに対してNTTドコモはLTEの利用者が700万人以上(取材当時、現在は1300万人以上)に広がっており、速度調査などで劣勢になるのはやむを得ない面がある。KDDIやソフトバンクモバイルも利用者が増えれば、いずれ同じ土俵で勝負できるわけだが、どうも巡り合わせが悪い。

 なるほど“先行者不利益”と言えるかもしれないと思って、栄藤部長の話を聞いていくと、発言の意図は違っていた。もっと大局的な視点に立って、「先行しても他社に追いつかれるまでの時間が短くなっている」ことを指摘していた。

 LTEに関しては、NTTドコモが2004年3月に「Super 3G」として最初にコンセプトを提案し、海外の有力通信機器ベンダーや通信事業者に標準化を働きかけてきた経緯がある。自らも標準化に積極的に関与し、標準化団体(3GPP)への提案数ならびにLTE技術の必須特許数では世界の通信事業者でトップである。

 通信事業者が標準化に関与する狙いは、サービスの先行提供である。標準化で仕様が確定するまで技術検討を待つのではなく、自ら積極的に関与して早期に取り込んでいく。機器ベンダー主導になることを避けたいとの考えもある。

 通信事業者が関連特許を保有すればライセンス料の高騰を防げるし、通信事業者特有または日本市場固有の要求を標準仕様に取り込みやすくなる。さらにNTTドコモには「我々がやらなければ日本で誰がやるのか」という自負もある。

 ところが以上の取り組みをして、標準化に貢献し、先行してサービスを始めたとしても、通信事業のメリットがなかなか得られない。

 技術開発の活動は利用者に評価されにくい。競合する通信事業者は通信機器ベンダーの装置を導入すれば簡単に追随(サービスイン)できる。通信機器ベンダーは標準化に貢献して技術で先行できれば、それがそのまま強みとなって世界シェアを拡大できる可能性があるが、通信事業者はそうなりにくい。