写真●IEEE 802.11aiタスクグループの議長を務める真野浩氏
写真●IEEE 802.11aiタスクグループの議長を務める真野浩氏
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 世界の通信や電子技術の標準規格を決めるIEEE(米国電気電子技術者協会)の場で今まさに、新しい無線LAN規格「IEEE 802.11ai」の策定が進んでいる。真野浩氏は、この技術の仕様策定を進めるタスクグループの議長を務める。IEEE 802.11aiは、無線LANアクセスポイントへ従来より速く接続できるようにして、「歩きながらでも無線LANを使えるようにする」ための技術だ(関連記事1)。

 スマートフォン(スマホ)などからアクセスポイントに接続して無線LANを使うには「認証」と呼ぶプロセスが必要になる。このプロセスを高速にする仕組みなどを規定するのがIEEE 802.11aiである。

 IEEE 802.11aiの規格に準拠した無線LAN機器ならば、徒歩で無線LANスポットのそばを通過しながらでも認証・接続が完了する。歩いているスマホユーザーに向けて公衆無線LANスポットから情報を配信するといったサービスが提供できるようになる。これまでは無線LANスポットに接続するプロセスに時間がかかり、歩きながら認証・接続するのは難しかった。

 真野氏はタスクグループの議長職と並行して、ネットワーク機器ベンダーのアライドテレシスのグループ会社であるアライドテレシス開発センターの取締役も務める。同社で研究業務に携わるほか、電波実験のための環境をコンピュータの仮想空間上で作るという先進的な研究も行うなど、多忙な日々を送る。

 一貫しているのは、無線通信の可能性を広げることである。実はIEEE 802.11aiの根幹となる技術を開発したのも、その標準化を呼びかけたのも、真野氏自身である。発案から今日に至るまでには長い道のりがあった。

「みんな後から付いてくる」と思っていた

 10年以上前、真野氏は電車の沿線に無線LANスポットを設置し、高速に移動する電車内でも無線LANを使える仕組みを考案・実験していた。接続する無線LANのアクセスポイントを切り替える(ハンドオーバーする)ことで、ユーザーは移動中の電車の中でも途切れることなく無線LANが使えるようになる、というものだった。

 「その頃は、自分たちの技術をIEEEで標準化するなどということは考えていなかった。“自分たちの技術力を提示して先頭を走っていれば、みんなが後を追って付いてくるはずだ”と思っていた」

 当時はまだやっとノートパソコンに無線LANが内蔵され始めた時期だ。興味を示す人は多かったが、ビジネスとなると厳しかった。電車内でハンドオーバーしても、それがビジネスとして“スケール”しないからだった。

 「新幹線の沿線に誰がそんなに無線LANのアクセスポイントを設置していくんだよ?と言われました。設置したとしても、せいぜい数千台のアクセスポイントが売れるだけ。無線LAN機器ベンダーからすれば、それはビジネスとしてはたいした数字じゃないんです」