「自作PCユーザーの一人として、これが面白いというパーツを企画しても、店員ではやはり限界がある。もっと多くのユーザーに面白いパーツを届けたい」――。
こう話す森田健介氏は、とあるPCショップの一店員ながら「店員M」として秋葉原の有名人の一人だった。その森田氏が2013年に転身し、店員から「作り手」になった。PCの流通や機器製造・販売を手がけるアユートに入社し、自作PCユーザー向けに、ひと味違うパーツを企画・制作・販売する「Project M」というブランドを始めたのである。
Project Mにおいて森田氏が手がけたパーツの一例を挙げよう。
- ATX(拡張スロットが7本あるフルサイズのマザーボード)対応なのに小型のPCケース
- USB対応機器をMini PCI Expressに変換するアダプター
- mSATA接続のSSD用ドライブケース
「普通のパーツで普通にPCを自作しているだけだと不要だけど、ちょっと手のこんだ自作をしようとすると欲しくなるようなケーブル、アダプターなどを製品化している」
「ちょっと手のこんだ自作」はまさに「店員M」のときに森田氏が手がけてきたものだ。スーパーファミコン、ゲームボーイアドバンス、ピピンアットマークといった、さまざまなゲーム機のきょう体を使ってPCを森田氏は自作してきた。
店員Mのスタートは、当時在籍していたPCショップT・ZONEで、PCを組み込んだスーパーファミコンを公開したときからだ。「直接名前出すのはどうかと思って」イニシャルで名乗ったのがきっかけだ。
ゲーム機のきょう体にPCを収めようとすると、小型化したり、配線をきれいにまとめようとしたりするなど、一歩踏み込んだ自作をすることになる。しかし、やってみると意外に適当なパーツが無い。
「そうしたパーツを店員としてメーカーにリクエストしても、作ってもらえる可能性は低い。仮に作ってもらえても、その店でしか売れない。どうせ作るなら、簡単に手に入るようにして、多くのユーザーに使ってほしい。そこで店員から作り手に変わろうと考えた。自分自身のキャリアやスキルを向上させる意味もあります」
Project Mで企画をする際、森田氏が特に気にかけているのが、「面白い」と思ってもらうことだ。売れる数などはあまり考えず、自分が欲しいと思うもの、人から聞いて「あればいい」と思うものから企画を始めていく。
「Project Mの製品は、誰もが欲しがる、直球ど真ん中ではない。誰が使うんだろうとか、どんなときに使うんだろうと思ってもらうもの。そこから新しいパーツ購入につながったり、新しい自作につながったりすればいい。そういった自作PCの楽しみを深めるような製品を出していきたい」。
Project Mの次の製品はどういうものになるのか。森田氏に聞いてみた。
「色々あります。まだアイデア段階で全然決まっていないのも。例えば、コタツPC。最近は薄いマザーボードがありますから、高さ40mmあれば収まる。ちょっと厚めでよければ、こたつ板をPCに仕立てられます。それから…」。
次から次へとアイデアを語る森田氏はとても楽しそうだった。
日経WinPC