社員が何らか理由で会社を去るときに、組織の機密情報を持ち出す例が後を絶ちません。社内の情報システムを熟知した内部の人間だけに、対策は困難を極めます。これら情報の流出を防ぐには、メリハリをつけた情報管理を徹底することはもとより、退職前の監視強化と退職時の手続きが欠かせません。


 実は、内部不正には発生しやすいタイミングがいくつかあります。その中でも特に注意すべきなのは、転職や契約期間の終了などによって従業員が退職するタイミングです。

 実際に、2012年度の経済産業省委託調査「営業秘密の管理実態に関するアンケート」によると、営業秘密の漏洩のうち、中途退職者(正社員)からの漏洩が50.3%を占めています。この結果は、従業員が営業秘密を持ち出す可能性が高いのは企業を中途退職する際であることを示唆しています。

狙われる「顧客情報」と「技術情報」

 従業員は、転職先や契約期間終了後に勤務する企業で、それまでの仕事で培ってきたものを少しでも活かしたいと思っています。そのため、退職時に次の職場で役立ちそうな顧客情報や技術情報などの重要情報を持ち出そうとするのです。

 持ち出す情報の内容は、セールス業と製造業では異なります。保険会社や証券会社のようなセールス業では、転職前の企業で担当していた顧客を転職先でも勧誘しようと考えるので「顧客情報」がターゲットになります。一方製造業では、転職先での製品開発に活かすために、開発した製品の設計図面などの「技術情報」がターゲットになります。

 退職時に従業員が持ち出そうとするこれらの情報は、競合他社においても当然ビジネス上の価値がある情報です。ですから、これらの情報が競合他社に渡れば損失になります。

「重要情報」にはメリハリをつけた管理を

 そのような事態を起こさないためには、重要情報を安全に管理する必要があります。そんなことは当然だと思われるかもしれませんが、実際には、重要情報を特定せずに情報を管理している組織は意外とあるものです。どれが重要な情報なのかということを把握するためにも、情報は重要情報と一般情報の少なくとも2つに分けて、重要情報を意識して安全に管理しなくてはなりません。

 重要情報として分類していたとしても、日常的にその情報に触れて慣れが生じたために一般情報と同じだと感じるようになっている場合があります。電子文書に重要情報が含まれるときには「機密情報」などの印を電子文書の上部や目立つ場所に記載しておくことが大切です。

 このような重要情報を特定して安全に管理していなければ、不正競争防止法の保護対象となりません。ただし、不正競争保護法の保護対象になるかどうかについては他の要件もあるため、詳細は経済産業省の営業管理指針を参照してください。